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フィリピン 台風16号 緊急支援の軌跡

2010年09月02日  フィリピン緊急支援
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2009年9月26日にフィリピンを襲った台風16号により、ルソン島にある首都マニラとその周辺地域は甚大な被害を受けました。集中豪雨により河川は氾濫し、湖や川の近くの建物は次々と洪水に襲われました。人の背丈よりも高い位置まで水面が上がった場所もあり、多くの家が流され、人的被害も甚大でした。フィリピン国家災害対策本部によると、犠牲者は464名、被災の影響を受けた人口は500万人にも上り、農業やインフラなどの経済的損失は2,300億ドル(約20兆7,000億円)以上になったと発表されています。難民を助ける会は延べ5名の職員を緊急支援チームとして派遣し、支援にあたりました。これまでの活動をご報告いたします。

食料および生活物資の緊急配布

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地図出典:Tsukui International Inc.

難民を助ける会は、被災直後から約2カ月半の期間に、リサール湖北のリサール州の各地域で計2,858世帯(約14,290人)に食料および生活物資を配布しました。配布の対象としたのは、被災者の中でも特に支援を必要としている、台風によって家屋や職を失った家族が中心です。
台風が過ぎ去った後も、人々の生活は困難を極めました。なかなか水が引かない地域もあり、家屋が流されてしまった人々や、自宅が水没したままで戻れない被災者もいました。家屋が無事でも、洪水で運ばれた泥やゴミ、汚物が流れ込んできた地域もあり、多くの人々が長期間にわたる避難生活を余儀なくされたのです。
また、水害により職を失ってしまった人々も多くいます。耕作地を失った農民や、漁のための道具を失った漁師、また、工場の機械や資材が水没したことで操業停止となり、収入を失った工員も多くいました。
難民を助ける会は緊急支援物資を配布し、こうした家族の当面の生活を支えました。

1世帯あたりの緊急支援物資の内容
米25キロ、水5リットル、食用油、醤油、酢、魚醤、魚缶、ソーセージ缶、石けん、洗濯粉、タオル、毛布、食器セット、歯ブラシ、歯磨き粉、バケツ、生理用品

※この事業は皆さまからの温かいご寄付に加え、ジャパン・プラットフォームからの助成を受けて実施しました

障害者、高齢者、妊婦に配慮した物資を配布

食料や生活物資の配布に加え、障害者や高齢者、妊婦には3インチ(約9センチ)厚のマットレスの配布も行いました。障害を持った方々にとって、長い期間避難所の硬い床の上で眠ることはとても耐えられることではなく、健康状態が著しく悪化する恐れもあります。適切な睡眠を確保することは、食料などと同様にとても大切なことです。しかし、これら社会的に弱い立場におかれた方々のニーズを考慮した緊急支援は、十分とは言えません。難民を助ける会は被災直後から約 2カ月半の期間に、マニラ首都圏および近郊のリサール州やカビテ州の各自治体や障害者支援団体の協力の下、ジャパン・プラットフォームの助成と併せて 713枚のマットレスを配布しました。

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リサール州の障害者自立支援団体タハナン・ワラン・ハグダナンで、食料や生活物資などの緊急支援物資に加え、マットレスを配布する広谷樹里(写真中央)

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支援物資のマットレスを受け取ったロリー氏の自宅を訪ねる角谷亮(写真右)。洪水は車イスを使うロリー氏の肩の上まで達したという

障害者自立支援団体への支援

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難民を助ける会が供与したハンドドリルや研磨機を使用し、全国障害者協同組合連合の作業所の操業が再開

被災した個々の障害者に食料や生活物資、マットレスを配布したほかに、台風で深刻な被害を受けた障害者団体の設備修繕や資機材の供与などの支援も行いました。
障害者自立支援団体タハナン・ワラン・ハグダナン(以下TWHI)は台風16号により、リサール州の本部と地域事務所が被害を受け、同様に、全国障害者協同組合連合(以下NFCPWD)も、リサール州の本部と2つの共同作業所も深刻な被害を受けました。機械や製品の原材料が水没し、修復・修繕が不可能なものも多くありました。工場や作業所は操業停止に追い込まれ、多くの障害者が職を失いそうになったのです。
難民を助ける会はNFCPWDに対して資機材を供与したほか、災害用緊急セットの設置と、職を失った人への縫製技術の研修を支援。また TWHIに対しては、住友財団の助成と併せ、資機材の供与と施設の修繕を行いました。

私たちが本当に必要なものを届けてくれました

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「日本の皆さま、ありがとう」感謝の気持ちを表すロゼンタさん(左)に話を聞く五十嵐(右)

TWHIの敷地内に住み、車イス工房で働くロゼンダさん(34歳)の家族も被災しました。ロゼンダさんは幼いころにポリオ(小児マヒ)を患い、車イスを 使って生活して います。もともと活発なロゼンダさんは、車イス・バスケットボールの選手でもあり、国際大会にも出るほどの腕前です。そんな体力には自信のあったロゼンダ さんですが、今回の水害は「本当に恐ろしかった」と語ります。「水があっという間に押し寄せてきて、車イスに座っている私の肩の高さまで迫りました。1棟 だけある2階建ての建物に、2歳と4歳になるふたりの娘と妻を避難させました。」TWHI敷地内は、バリアフリーにするためほとんどの建物が平屋建てで す。 「私は、水に浮かぶ木製テーブルの上で一晩を過ごしました。水が引いて、家に戻るとすべての食料と家財道具が水に浸かり、めちゃくちゃになっていました。 難民を助ける会は食料や生活物資だけでなく、マットレスなど私たちが本当に必要としているものを届けてくれました。その上、仕事を見つけるのが難しい私た ち障害者にとって、職場を失うのがどういうことかを理解し、工房の再建も支援してくれました。難民を助ける会の支援なしでは、工房の再開は非常に難し かったでしょう。日本の皆さまの温かさに感謝しています。本当にありがとうございました。」
フィリピンでは、悲惨な被災現場とは対照的に、大勢の人々の前向きな笑顔を目にしました。被災した人も、被災しなかった人も、障害がある人も無い人も、協力し合って前向きに生きているその姿がとても印象的でした。

2010年8月末をもって、難民を助ける会は、フィリピン・台風16号水害緊急支援での活動を終了いたしました。ご支援いただいた皆さまに心より感謝申し上げます。

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

東京事務局 五十嵐 豪

難民を助ける会プログラム・コーディネーター 2009年9月より難民を助ける会海外事業担当としてカンボジア、スーダン事業を担当。2009年10月よりフィリピンにて台風被災者支援に従事(東京都出身)

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