活動ニュース

シリア:おびただしい地雷・不発弾から子どもたちを守って

RSS

戦闘が終わっても、30年は残る地雷・不発弾

いつ自宅に爆弾が落ちてもおかしくない。今日は誰が被害に遭うのか。そんな強い不安を抱えた日常を、シリアの人々は生きています。空爆や地上戦は今も毎日のように続いており、国内避難民キャンプ、病院、学校、市場など、市民の生活の場が攻撃の対象になっています。

ロケット、砲弾、クラスター弾など、シリアで使用されている兵器は、着弾時に全てが爆発するわけではありません。多くが不発弾として残り、攻撃のない日にも、そして戦闘が終わった後も、人々を危険にさらし続けます。これら不発弾は、意図されたように爆発しなかった、いわゆる「不良品」ですが、非常に不安定で、少し動かすだけで爆発する可能性があります。さらに、不発弾と同様に多くの命を脅かしているのが、地雷です。ここシリア国内でも、地雷が大量に埋設されています。

犠牲になっているのは、玄関先や農地で遊んでいたり、通学の最中の子どもたち、麦の収穫をする女性たち、農地を耕す父親、隣村へ出かけた若者など、多くが戦闘とは無関係の人たちなのです。四肢切断だけでなく、命が奪われることも、1回の事故で複数の人が犠牲になることも多々あります。

これらの兵器が、シリア危機の勃発から5年以上にわたって無差別に使用されてきた結果、今戦闘が終わったとしても、地雷・不発弾を除去するのに30年以上の年月がかかると推測されています。除去を待つだけでは、被害を止めることができません。AARは、その間も地雷や不発弾の危険にさらされて生きるシリアの人々に、被害に遭わないよう地雷・不発弾回避教育を行っています。

rpt1606_2076_UXO.jpg

生活の場に散在する不発弾。ブロックで囲んで人が近づかないようにしている

危険とわかっていても

地雷・不発弾事故の危険を高める要因は様々ですが、シリアでは大きく3つにわけることができます。

1つ目は、地雷・不発弾の危険性や、危険を回避する方法を知らないことです。子どもたちや国内避難民がこれにあたります。3人の子どもたちが、爆発物を食糧の入った缶だと思って家まで運んでいる間に爆発し、全員亡くなってしまう、という事故がありました。これは子どもたちが地雷や不発弾の形状や、危険性を知らないことが大きな理由です。また、空爆を逃れて見ず知らずの土地で生活を始める国内避難民も、どこが危険なのか、どの道路を避けるべきかなど、地元の人なら知っていることを知らずに、危険行動をとってしまう場合があります。

2つ目は、地雷・不発弾について誤った認識や知識を持っていることです。例えば、「地雷には使用期限があり、一定の期間がすぎれば爆発しなくなる」「不発弾は投下時の大きな衝撃で爆発しなかったのだから、少し動かしただけでは爆発しない」などが誤った認識です。

3つ目に、地雷・不発弾の汚染を知っていても、危険行動を取らざるをえない場合があることです。例えば、シリアでは長引く紛争のためにガソリンや木などの燃料が枯渇しており、凍りつくような冬には燃料にする段ボールなどを求めて、不発弾汚染地域に入らざるを得ません。その仕事を担っているのは、多くが少年たちです。あるいは、空爆や地上戦の合間をぬって、生きるために農地を耕す農夫は、土地が汚染されていることを知っています。それでも家族のテーブルに食事を用意するには、農作業をするしかないのです。

1と2に対しては、地雷・不発弾とその危険の回避方法に関する正しい知識を伝えることが、人々の命を守ることにつながります。また3の、わかっていても地雷原に踏み込まざるをえないという人たちには、その危険性をより深く理解してもらい、危険を少しでも軽減する方法を共に考えます。

地元住民が地雷・不発弾の危険を伝える

AARはまず、汚染のひどい地域の住民が地雷や不発弾に関してどのような知識を持っているか、爆発物を見つけた時にどのような行動をとるかについて調査をしました。その結果に基づいて、住民に最も有益な情報、効果的な伝え方を考えました。

rpt1606_2076_session2.jpg

住民に地雷・不発弾の危険を伝える地域教育員(2016年)

実際に住民に対して教育活動を行うのは、その地域の住民の中から選ばれた、ボランティアの「地域教育員」です。事業対象地から、地域の住民や行政、文化などを熟知している人を集め、その役割を担ってもらいます。地域教育員はAARのスタッフからしっかり研修を受けた後、汚染が認められる地域に出向き、学校や広場、個人のお宅などで住民に対して講習をします。地雷や不発弾がどのような形をしているのか、危険な場所の見 分け方、見つけたらどうしたらよいか、ポスターなどを使って説明しています。汚染地域に住む住民は地雷や不発弾についての一定の知識を持っており、特に大人のセッションでは、双方向の情報交換に重点をおいています。地域教育員は、汚染によって困っていることは何かについて討議したり、間違った知識を正すこ とに注力します。

これまでに9人の地域教育員が、3,995人の住民に地雷回避教育を実施しました。

全ての住民が、地雷回避教育に対してはじめから肯定的なわけではありません。「すでに事故がたくさん起こってしまっている。今さら啓発活動に来ても意味がない!」「知識なんかいらないから早く除去活動をしてくれ」など、日々危険にさらされている人々の悲痛な思いが、地域教育員にぶつけられました。地域教育員は、冷静に怒りを受け止めたうえで、住民にこう伝えました。「除去が終わるまで、地雷や不発弾の事故で悲しい思いをする人が、これから10年以上にわたって必ず出続けます。国境が閉鎖されてしまったり、戦闘が再開したりして、私たちがここに来るのが遅くなってしまったけど、この汚染された村で正しい知識をみんなが身に付けることは、自分の、そして子どもたちの身を守るためにとても重要です」。自分自身も悲しい事故をたくさん見聞きしてきた教育員だからこその、説得力のある言葉です。怒りをぶつけた住民は、セッションに参加すると多くの場合、意見が変わったといいます。地雷回避教育の意味、重要性を理解し、セッションの御礼にと、昼食に誘われることもあったようです。地域教育員の頼もしい姿を、仲間としてとても誇らしく思います。

今も増え続ける地雷・不発弾――AARは活動を続けます

講習を受けた住民から聞こえてくるのは、子どもたちを守りたいという非常に切実な声です。「子どもたちはいつも慣れ親しんだ親や先生より、外部からやってくる『専門家』の教えることにより耳を傾けるから、子どもたち向けのセッションを優先してほしい」「今日は学校に通う全ての児童が参加できなかったから再度訪問してほしい」「教育員がいなくても地雷・不発弾について伝えられるよう、学校向けのポスターやパンフレットがほしい」など、大人たちからリクエストが次々寄せられました。

今日も空爆や地上戦が行われ、地雷や不発弾はさらに増え続けています。AARは今後も、紛争下に生きる人々を守る活動を続けていきます。

rpt1606_2076_session.jpg

生活の場にひそむ地雷・不発弾から子どもたちを守りたい―子ども向けの講習会(2015年)

< 活動ニューストップに戻る

ページの先頭へ