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熊本地震:2ヵ月の支援活動から見えた復興の課題

2016年06月24日  日本緊急支援
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熊本で大きな地震が発生して2ヵ月以上が経ちました。

地震発生時からこれまでの被災地の状況の移り変わりと、AAR Japan[難民を助ける会]の支援活動、そして、その中から見えてきた課題について、緊急支援チームの古川千晶が報告します。

まったく足りなかった食糧の備蓄~直ちに炊き出しを開始

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最初の地震で全壊した家屋(2016年4月15日)

2016年4月14日と16日、熊本県熊本地方を震源地とする震度7を超える地震により、同町を中心に20Km圏内の地域で甚大な被害が発生した。人的被害は死者69名、行方不明者1名。住家被害は、全壊7,652棟、半壊22,856棟、一部損壊109,115棟。避難者数においては、1回目の地震 (4月14日)後は44,449人、2回目の本震後(4月16日)は183,882人にまでのぼった。

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震災翌日から炊き出しを開始。これまで1万7千食を提供した(2016年4月16日)

震災直後は、電気や水道などのインフラはストップし、さらに道路使用も制限され、多くの人たちは食べ物や居場所を求めて避難所に詰めかけた。しかし、 一時期の避難者数が10万人以上になったにも関わらず、熊本県に備蓄していた緊急時の食料および水は約6,000食分しかなく、食料の緊急支援が直ちに必 要な状況であった(2016/4/15 熊本県災害対策本部会議資料より)。

AARは4月15日に緊急支援チームを派遣し、その夜から益城町の飯野小学校を拠点に炊き出しを開始した。炊き出しでは、被災者も積極的に手伝ってくださったこともあり、豚汁やカレーなど毎回約500食から800食を提供することができた。AARでは5月6日まで、NPO法人ピースプロジェクトと協力して炊き出しを実施し、約17,000食を提供。5月6日以降は、炊き出しを行う他団体を支援するという形で継続した。

炊き出し実績(4/15~5/6)

炊き出し会場 避難所となっている益城町の飯野小学校、および阿蘇西小学校、阿蘇小学校、阿蘇西小学校、益城町保健福祉センター
メニュー 味噌汁、カレー、おむすび、牛丼、ポトフ、豚汁、野菜炒め、肉じゃが、焼きそばパン、だご汁、春雨のスープそば、タケノコの煮物、豚の角煮、など。

被災から1ヵ月~インフラの復興、物資の充足

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家屋の清掃が進み、街中では倒壊した家屋のがれきや、使えなくなった家電などが山積みに(2016年4月29日)

地震発生から約3週間後の5月の大型連休には、多くのボランティアが全国から駆け付けた。その甲斐もあり、瓦礫撤去や町中の掃除はある程度進んだように見受けられた。また、国や、全国各地の企業や個人から食料や物資が迅速にかつ十分な量が届いたことによ り、早々に被災地の物資不足は解消され、4月末ごろから支援物資の受け入れ一時中止や休止を発表する市町村が出てきた。5月6日の災害対策本部の発表による と、避難者数は15,158人にまで減少し、避難所数も4月17日時点で723ヵ所あったところ、5月6日は360ヵ所に減少した。さらに、ほとんどの地域で水・電気・ガス・道路などのインフラは復旧し、全国的なメディアによる被災報道も少しずつ減少する傾向となった。

生かされない東北の経験~福祉施設の調査から

AARが炊き出し支援と並行して当初から行っていたのが、災害時に支援から取り残されやすい高齢者・障がい者の調査である。東日本大震災での経験を活かし、福祉避難所や福祉施設を訪問し、不足している食料や物資を提供しながら、被災状況の確認とニーズの調査を行った。

被災地全域を調査対象とし、6月10日までに53の施設を訪問、48の施設で調査活動を行うことができた。この調査で、行政や多くの支援団体の活動により物資不足は急速に解消されている状態が把握されたものの、一方でさまざまな課題も明らかになった。

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震災から2ヵ月。ベッドはあるが枕やシーツは届いていなかった(2016年6月10日)

高齢者や障がい者の避難先として設置された福祉避難所では、東日本大震災での学びが活かされているとは決して言えない。最も被害が甚大だった熊本県益城町には、県指定の福祉避難所が5ヵ所設置されていたが、一般の避難者も利用したことにより、混乱した状況が続いた。本格的な福祉避難所として開設し始めたのは5月10日ころであり、それも十分に機能しているとは言い難い状況であった。支援物資をどこに受け取りにいけば良いのか、また、誰に尋ねればよいのかすら分からず2ヵ月たっても枕やシーツさえない福祉避難所も存在した。

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指定外の福祉避難所(2016年5月11日)

東日本大震災の教訓から、福祉避難所を運営するためのガイドラインが作られ、各避難所に配布されてはいた。しかし、そのガイドラインの使い方を把握している運営者がいなかったり、ガイドラインの活用方法が分からないというのが現状であった。

県や市町村から指定を受けていない、指定外の福祉避難所も存在する。指定の福祉避難所には、県と提携した業者からお弁当が毎日3食届けられ、物資に不足があれば届けられるようになっている。しかし、指定外の福祉避難所には、お弁当などの定期的な食料支援はなく、物資に関しても自分から取りに行く必要があり、持ってきてもらえるということはない。

福祉施設を一軒一軒まわり、必要な支援を届ける

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「手をつなぐ育成会」の方たちと話し合いをする筆者(手前)(2016年5月10日)

障がい者や、障がい者の家族が利用する福祉施設が被災したことで、浮き彫りになった問題もある。作業所や一時預かりなどのデイサービスを行う福祉施設は、障がい当事者の日常生活の場というだけでなく、障がい当事者が施設で過ごす間、家族が仕事や家事をこなすことができるといった役割も果たしている。地震で福祉施設の運営がストップしてしまったことで、障がい者の家族は自宅で世話をする必要が生じ、地震で散らかった家の掃除をすら時間をとることも難しくなっていた。特に、知的・発達障がいのある子どもたちは非日常的な状況に適応することが、ほかの子どもに比べて極端に難しい。そのため、震災前には見せなかった奇声や奇行が見られるようになり、それが一つの理由となって避難所に行くこともできず、半壊した自宅に閉じこもるしかないといった状況がある。

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子どもたちに心のケアセットを届けた。後列左から2人目がAARの古川千晶、前列右端が高木卓美(2016年6月13日)

AARが支援する熊本市手をつなぐ育成会は、知的や発達障がいの子どもをもつ母親で結成されたネットワーク団体である。その代表を務める西理事長は、「子どもたちには震災前と変わらない生活を送らせることが必要。簡単なおもちゃでいい。シャボン玉、パズル、好きだったDVD。知的や発達障がいのある子ども たちは繰り返し同じことをするのが好きという嗜好がある。そういったものを提供できるだけでも子どもたちの心は落ち着きます」と語っている。AARはこういった、行政に届きにくい声に応えるため、心のケアキットとして子どもたちが好きなおもちゃやDVDを パッケージにして、育成会を通じて、震災でおもちゃやDVDが壊れてしまったご家庭や福祉施設に配布した。

このように、地域に取り残された高齢者や障がい者は確実に存在するにも関わらず、行政側は一般避難所の管理や罹災証明の発行などの対応に追われ、実態の把握が追いついていない。AARを始めとするNGOや現地の任意団体は、支援から取り残される人がいないよう、1軒1軒歩いて回り、その状況確認に努め、必要な支援を適宜届けている。

配付実績(4/15~6/15)

配付地域 熊本県熊本市、上益城郡益城町、上益城郡御船町、阿蘇市、阿蘇郡南阿蘇村、阿蘇郡西原村、菊池郡大津町
配付施設

(避難所)益城町立飯野小学校、阿蘇市立阿蘇西小学校、熊本市立五福小学校、熊本市立江南中学校、西原村立河原小学校、西原村立山西小学校

(福祉施設)NPO法人はなみずきの会 老人ホームゆうあい(指定福祉避難所)、社会福祉法人西原村社会福祉協議会、社会福祉法人わくわく ふれあいワーク、特定非営利活動法人 自立応援団 就労支援センターくまもと、生活介護支援センター あゆみ、社会福祉法人成仁会 みどりの館、社会福祉法人福芳会 阿蘇こうのとり保育園、障害者自立支援センター にしはらタンポポハウス、社会福祉法人キリスト教児童福祉会 子どもL.E.Cセンター、就労継続支援事業B型そよかぜ、介護老人保健施設 リハセンターひばり、社会福祉法人 伸生紀 養護老人ホーム オアシス、NPO法人ケアサービスくまもとサンアンドムーン、手をつなぐ育成会、益城町保健福祉センター、特別養護老人ホーム「悠優かしま」、熊本県の対策本部救護班、社会福祉法人ましき苑 特別養護老人ホーム 花へんろ

配布物

(衛生用品)女性用衛生用品、大人用オムツ、子ども用オムツ、尿とりパッド、トイレットペーパー、消毒用用品、マスク、消臭剤、掃除用具、掃除機、洗剤、歯磨きセット、除菌ウェットティッシュ、シャンプー、石けん、など

(食料品)野菜、肉、果物、牛乳、カップ麺、粉ミルク、羊羹、お菓子、清涼飲料水、経口補水パウダー、スポーツ飲料、など

(生活用品)軍手、ビニール袋、ビニールシート、紙コップ、タオル、下着、長靴、合羽

(医療用品)医療用プラスティックエプロン、マスク、医療用ハイター、弾性ストッキング

(福祉用品)車いす、ポータブルトイレ、マッサージ機

(心のケア用品)おりがみ、ボードゲーム、ねんど、など

誰も取り残されない復興に向けた提言を

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益城町にできたプレハブの仮設住宅(2016年6月10日)

被災から2ヵ月経過した6月15日時点で、避難所および避難者数は大幅に減少し、被災地20市町村のうち、避難所は123ヵ所に統合され、避難者数は 6,241人にまで減少した。さらに、被災者が待ち望んでいる仮設住居の建設も進み、7月末には全3,094戸が建設完了の予定である。6月10日には、益城町で完成した仮設住居への入居が始まった。入居者の抽選は高齢者や障がい者を優先して行ったと発表されている。

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仮設住宅のトイレは幅が狭く、車いすでは入れない。左は調査をする被災地障害者センターくまもとの東俊裕さん(写真はご本人提供)(2016年6月10日)

しかしながら、ここでもまた東日本大震災の学びが活かされていないことが判明した。被災地障害者センターくまもとの事務局長で、自身も車いす利用者である東俊裕さんが入居前に視察に行ったところ、バリアフリーの設計には程遠いデザインの仮設住宅である こと分かった。現時点で完成している仮設住宅は、スロープは設置されているものの、車いすの幅が約70cmであるのに対し、トイレの間口は57cmしかなく、車いすでトイレの個室に入ることができない。また、トイレ内の空間が狭いため、 介助人が一緒に入ることもできない。これを受けて改善を県に提言するも、すでに同じ仕様で被災地各所で建設が進んでいるため、プレハブタイプの場合は作り直しが困難との回答であったという。仮設住宅をどう改善していくかは、今後の課題である。

益城町には身体障がい者が1,437名おり、そのうち肢体不自由1級・2級の方が275名いる。この人数は障がい者手帳を持っている数であり、自治体に把握されている人数であるが、高齢者の車いす利用者を加えるとさらに人数も増える。AARは、引き続き支援が行き届いていない福祉施設などの声を聴き、必要な支援を継続していくとともに、東日本大震災での支援活動の知見を活かし、障がい者に配慮した復興に向けての提言を行っていく。

※この活動は、ジャパン・プラットフォーム(JPF)の助成に加え、多くの個人、企業・団体の方々からのあたたかいご寄付を受けて実施しています。ご支援くださった企業・団体については、こちらのページでご紹介しています。

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【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

 古川千晶

大学卒業後、人材コンサルティング会社などを経てイギリスの大学院で国際開発学を学び、帰国後AARへ。2010年10月よりハイチ駐在。2012年1月より東京事務局。現在はアフガニスタン事業を担当する他、2015年のネパール地震やバヌアツ・サイクロンなどさまざまな緊急支援にも携わる(大阪府出身)

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