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シリア難民支援:子どもたちはいま...

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多くのシリア難民が暮らすトルコ南東部のシャンルウルファで、AAR Japan[難民を助ける会]は障がいがあるなど特に困難な立場にあるにもかかわらず、行政などから必要な支援を受けられずに困窮しているシリア難民を対象に、個別の支援を行っています。AARが支援している子どもたちをご紹介します。

足を失った...でも、できることがある

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自宅への空爆で両足首から先を失ったハリドくん(2017年3月20日)

昨年9月、アレッポにあるハリドくん(仮名・13歳、上写真)の自宅が空爆されました。自宅にいたハリドくんはアレッポで唯一の診療所に運びこまれましたが、そこには充分な設備が整っておらず、ハリドくんは麻酔もないまま緊急手術を受けざるを得ませんでした。しかし治療の甲斐なく、ハリドくんは両足の足首から先を失いました。その後、一家はトルコに避難しました。
トルコに逃れても、父親がなかなか仕事を見つけられず、ハリドくんのまだ10歳の弟が働きに出ざるを得ないなど、一家は経済的に苦しい生活を強いられました。AARは弟が働かなくてもよいように食糧や生活手当を、またハリドくんのために足が不自由でも寝起きがしやすい医療用のベッドなどを提供しました。
ハリドくんの体調が回復すると、母親は学校に行くよう勧めましたが、ハリドくんは「足が元通りになったら行く」と言い張り、拒否。神経質になって心を閉ざし、家族とも口を利かないことがありました。そこでAARは心理教育担当のスタッフを派遣。家族と協力しながら、ハリドくんに語りかけたり、一緒に遊んだり、少しずつ心を開いてくれるよう努力しました。ハリドくんはAARのスタッフに頼まれて、得意な絵画を描いたり、生まれたばかりの姉の子どもの世話をしたりしているうちに、足を失ってもできることがたくさんあることに気付き、少しずつ自信を取り戻していきました。そして3月からは学校に通い始めたのです。
初日、学校から帰ってきたハリドくんの表情は、怒りに満ちていました。ほかの子どもたちには足があり、歩くことができるという現実を目の当たりにしたからです。それでも、ハリドくんは学校に通い続けました。15分間の休み時間は「皆が歩いたり、走ったりしているのを見るのが嫌だから好きじゃない」けれど、「学校は楽しい。学校ではクラスの全員が支えてくれるから、皆が友だちだよ」と話すハリドくん。

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「ほかの子と同じでありたい」。義足ができる前から、ハリドくんは車いすではなく歩行器を使って学校まで通っていました(2017年3月20日)

最近になって義足が完成し、ハリドくんは松葉づえをついて学校に行けるようになりました。「ほかの子どもと同じでありたい」。その強い思いから、手助けしようとする母親にあらがって、通学カバンも自分で背負います。「絵画と体育の授業が好き。大きくなったら絵画の先生になりたい」とハリドくんは将来の夢を語ります。一方で今欲しいものを聞くと、「アレッポに帰りたい。学校だってもっと大きくて、きれいだった」と本音を洩らしました。

戻れない故郷を想いながらも、ハリドくんは今日も学校に通っています

児童労働から解放され、学校に

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モハメドくんの好きな科目はアラビア語と算数。「勉強するのも友だちと遊ぶのも好き」とモハメドくん(2017年4月10日)

モハメドくん(仮名・13歳、左写真右から2人目)は昨夏、故郷のアレッポからトルコに避難してきました。アレッポの自宅は爆撃を受けて崩れ果て、そのとき自宅にいた父親は左腕と右足に重傷を負いました。まだ数回、手術を受ける必要があり、ケガをした手足を十分に動かすことはできません。
父親はアレッポで仕立屋を営んでいましたが、ケガのせいで働くことができず、代わりに長男のモハメドくんが路上でパンを売って一家を支えていました。朝から夕方まで働いて、一日に15~20リラ(450~600円)を稼いでいたモハメドくん。児童労働を取り締まる警察に2回も拘束されました。
そんな一家の窮状を知り、AARは支援を開始。生活手当を支給しながら、父親の障がい者証明書の取得など行政関係の手続きを行いました。EU(欧州連合)が特にぜい弱な難民を対象に実施している現金支援を受けられるようにするためです。働く必要がなくなったモハメドくんは、2月から学校に通い始めました。
アレッポにいたころは学校が大好きで、成績も優秀だったというモハメドくん。「学校は楽しい。この前はトルコ語のテストで一番を取ったよ」。今では友だちもたくさんできました。「好きな科目はアラビア語と算数。しばらく学校に行けなかったけど、一生懸命勉強しているから授業にはついていってるよ」。父親も、優秀なモハメドくんに目を細めます。「この子は家でコーランも読むし、勉強も欠かさないんです」。モハメドくんに将来の夢を聞くとこんな答えが返ってきました。

「建築エンジニアになって、アレッポの家を建て直すんだ」。

この支援は皆さまからの温かい寄付を活用するとともに、ジャパン・プラットフォーム(JPF)からの助成、生活協同組合パルシステム東京の「平和カンパ」を受けて実施しています。

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

トルコ事務所 宮越 清美

2015年4月より現職。大学卒業後、証券会社勤務を経て、国際協力NGO職員としてイランやヨルダンに駐在。2013年10月にAARに入職し、タジキスタン事業などを担当。宮崎県出身

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