活動ニュース

シリア人職員の思い①:「命を救ってくれてありがとう」


空爆や地雷・不発弾から身を守るために

電気もない。ガスもない。水もない。家もない。食べ物もない。

いつ、どこで起きるかも分からない空爆に怯えながら眠れない夜を過ごしている。

自分は明るく温かい部屋で、何にも困らない安全な暮らしをしながら、凄惨な状況下のシリアに住む人々に「地雷や不発弾、空爆の脅威からどのように身を守るか」を教えている。2016年5月にAAR Japan[難民を助ける会]の職員になったサラ(仮名)は、ときどき、後ろめたく感じるそうです。

サラはシリア出身。都市部に住んでいましたが、度重なる空爆などに耐えかねて、数年前に難民として国外に逃れました。AARでは、地雷・不発弾や空爆の被害を防ぐための研修を担当しています。
研修では、その地域に住むボランティアの「地域教育員」を養成します。その「地域教育員」が近隣の住民に対して講習会を行い、地雷や不発弾から身を守る方法や、空爆のときの対処の仕方を教えています。これまでに、12人の地域教育員が8300人に講習会を実施しました。

AARが支援する講習会で、爆発物から身を守る方法を練習する少年

AARが支援する講習会で、爆発物から身を守る方法を練習する少年

サラは研修の後も地域教育員と日々連絡を取りながら、講習会の結果や進捗状況を管理しています。 初めての研修のとき、20代のサラは、自分より年上の男性が、きちんと自分の話を聞いてくれるかとても不安でした。案の定、最初は「自分の方が地域の事情も爆発物の脅威も知っている」とばかりに、まともに聞いてくれませんでした。

地雷や不発弾の被害を完全に無くすには、それらの除去が不可欠です。現実には、戦乱の中、除去どころか地雷や不発弾の汚染の広がりは深刻化しています。
「(除去できないのに)講習会に意味はあるの?」。辛辣な言葉を投げかけた地域教育員もいました。

サラはそんなとき、「講習会を受けなかったために自分の家族を万が一地雷や不発弾で失ってしまったらどう思う?」「自分がけがをして働けなくなったり、死んでしまったりした後、家族に何が起きるのか想像してみて」と訴えます。どうして講習会が大切なのか、一人ひとりに心から理解してもらわないと、彼らが地域の人々を説得することはできません。自分の話に耳を傾けてもらいたいと、サラはあらゆる努力をしました。シリアはムスリムが多い国ですが、サラの出身地ではスカーフを頭に被らない人が多かったそうです。サラも普段はスカーフを被りませんが、話を聞いてくれるならと研修中は被ることにしました。

AARが支援する講習会の様子

AARが支援する講習会の様子

数ヵ月後、「意味はあるの?」と最初の研修で言い放った地域教育員から御礼のメッセージが届きました。講習会に参加した彼の親戚の1人が空爆にあったけれど、教えられた爆発物から身を守る姿勢をとったところ、命が助かったというのです。彼は「命を救ってくれてありがとう。命を救う支援は本当にありがたいです」と言ってくれたそうです。

サラの夢は、いつかシリアに戻り、シリア国内の地域社会の再建に貢献することです。戦争が終わっても、地雷や不発弾は残ります。それらを除去するには少なくとも30年以上かかると言われています。戦争が終わった後に生まれた子どもたちにとっても、「地雷や爆発物の被害を避けるための教育はますます重要になる」と、サラは強調します。
「自分が少しでも役に立っている」「いいことができた」。
その実感を糧に、今日もシリアの平和を祈って活動をしています。

次回は自身が爆発物の被害に遭った職員の声をお届けします。

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サラのノート。シリア危機が始まったときから、そのときの気持ちや出来事を書き記しています。国外に逃げた時に持ち出したものの一つです

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