活動ニュース

九州豪雨:被災からもうすぐ1年。これまでの活動とこれから

2018年05月24日  日本緊急支援

2017年7月5日から6日にかけて、福岡県と大分県を中心とする九州北部で発生した集中豪雨は、総降水量が多い地域で500ミリを超え、福岡県朝倉市や大分県日田市などで24時間降水量の値が観測史上最大となる大雨となりました。あれからもうすぐ1年が経とうとしています。AAR Japan[難民を助ける会]は発災直後から生活必需品の配付などの緊急支援を実施し、現在も現地の団体と協力しながら被災者の個別支援と子どもたちへの支援を続けています。皆さまのご支援に心より御礼を申し上げますとともに、これまで行ってきたAARの活動と被災地の現状をご報告します。

土砂崩れによる流木の影響が今も

AAR Japan[難民を助ける会]が支援活動を行った福岡県朝倉市では、死者33名、行方不明者2名、重軽傷者11名の人的被害のほか、およそ2,500件にのぼる住居や建物の全半壊や床上浸水など、甚大な被害が発生しました。また、農林水産関連の被害が12,795件と突出していることも特徴的な災害です。加えて、さまざまな場所で発生した土砂崩れにより押し寄せた流木などの影響により、半年経過しても全面通行止めの道路が3ヵ所、片道通行止めの道路が4ヵ所残っており、復旧を遅らせる一因となっています(朝倉市災害警戒本部発表、2018年5月11日時点)。

流木であふれたガソリンスタンド

朝倉市の中でも特に大きな被害が出ていた杷木地区。未だに流木による復旧の遅れがある地域です(写真は2017年7月7日撮影)

必要なものを迅速に届ける

AAR は2017年7月6日の朝より被害状況の調査を行い、翌7日に緊急支援チーム3名を現地に派遣しました。現地到着後は災害対策本部、社会福祉協議会、市役所の福祉関連部署や開設している指定避難所を訪問し、不足しているさまざまな物資を提供しました。また、並行して現地でニーズ調査を行いながら、全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)を中心に毎日開催されていたNPO・NGOの連携調整会議に参加し、支援内容や支援場所に偏りが出ないよう情報共有と調整を行いました。

当時、朝倉市では7月の酷暑に加え、断続的に雨が降り続く非常に不安定な天候でした。冷房設備が十分に整っていない避難所では不快な環境で避難生活を送らなければならなかったこともあり、着替え用の下着や衣服、衛生用品が喜ばれました。

避難所に支援物資を届けるAAR大室和也

朝倉市生涯学習センター避難所へ下着を届けるAARの大室和也(2017年7月11日、朝倉市生涯学習センター)

物資配付実績(4/15~5/26)合計6避難所ののべ975人に提供

配付場所 ピーポート甘木、朝倉地域生涯学習センター、杷木中学校、サンライズ杷木、朝倉市介護サービス課、甘木体育センター
配付物資 水、スポーツ飲料、マスク、高齢者用おむつ、子ども用おむつ、尿取りパッド、清拭シート(子ども用おしりふき、介護用体拭き)、あせもシート、タオル、ウエットティッシュ、アルコール手指消毒剤、歯ブラシ、歯磨き粉、ドライシャンプー、消臭スプレー、ハンドクリーム、体温計、湿温度計、男女下着、高齢女性用下着、高齢女性用の衣類など

避難所を少しでも快適に

物資配付と並行してニーズの調査を行う中で、避難所内で高齢者や障がい者、乳幼児などの配慮を要する方々への対応が十分でないことが早い段階で判明しました。そこで、朝倉市の介護サービス課の職員と意見交換などを行い、市からの正式な要請をきっかけに、JVOAD、特定非営利活動法人レスキューストックヤード、特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパンと協力し、指定避難所であるサンライズ杷木に福祉避難スペースを設置しました。

当初、サンライズ杷木では福祉避難スペースの利用に関して差し迫ったニーズはありませんでした。しかし、避難所閉鎖まで長い時間がかかると見込まれていたこと、被災地には緊急入所措置などで保護されていない、配慮を必要とされる方々も残されている可能性が残っていること、雨が降るたびに発令される避難指示に伴い避難所の利用者が今後も流動的に発生することなどの理由から、予防的な観点での福祉避難スペース開設に踏み切りました。また、その後の状況に合わせて福祉避難スペースを含めた避難所の環境整備や改善を行うべく、避難所運営のサポートも行うことにしました。

避難所に福祉スペースを設置しました

熊本学園大学で福祉避難所の開設や運営を経験された方々からご助言をいただき、福祉避難スペースを開設しました。写真右はAAR田中晴子(2017年7月16日、サンライズ杷木)

避難所に暮らす人々の意見を反映する

サンライズ杷木避難所の運営は自治体の職員が日替わりで行っていました。また、市外からの応援で派遣されてくるさまざまな分野の職員も短期間で入れ替わります。そのため避難所を運営する行政へ、避難している住民の要望が集約されにくいなど、行政側との情報共有がスムーズに行われていませんでした。全体として下記の分野での情報共有が不十分だったため、避難者の代表が参加する避難所情報共有会議を定期的に開き、住民の意見を反映できるような仕組み作りを行いました。

    • 基幹業務:避難所の運営サイクルの確立、情報の取得・管理・共有
    • 食料・物資管理:不足分の把握や調達
    • 健康管理:衛生的な環境の維持、避難者の健康管理、寝床の改善
    • ニーズへの対応:要配慮者、女性・子どもへの対応

※内閣府防災担当 避難所運営ガイドラインに沿って作成

避難所の布団を干したり洗濯することできないため、住民の方々が不衛生な布団で寝ざるをえない状況が続いていましたが、その不満が行政の担当職員に届いていませんでした。情報共有会議の場を持ったことで、布団の交換やクリーニングが可能となりました。そのほか住民からの細かい要望や避難所運営に関する情報を滞りなく引き継ぐための仕組みづくりと、AARの活動終了後も会議が継続されるよう避難所運営側と住民の関係構築に努めました。

避難所の住民と運営側との話し合いの様子

避避難所内での情報がうまく共有されていない状態を受けて、避難所運営職員と住民の代表者が情報共有できるよう、会議の場を定期的に設けました。中央奥はAARの大室和也と田中晴子 サンライズ杷木 2017年7月22日)

被災した障がい者のために

災害時の障がいのある方々への支援は、過去に課題が繰り返し指摘されてきました。ニーズが十分に把握されず支援が届かないということがないよう、AARは障がいのある方々のニーズ調査を積極的に行い、朝倉市で数少ない障がい者作業所を運営する「あゆみの会」へ、水害により廃車となった送迎車両の代替車を提供しました。また、久留米市から応援に駆けつけてくださった、地域活動支援センター「ごろりんハウスの会」理事長の中山善人氏とともに障がい者の方々の被災状況を調査。災害によって緊急入所措置となった障がいのある方々に対しては、最終的に各々が自宅へ戻ることを意識しながら支援を行う必要があるという内容で、朝倉市の福祉事務所に提言を行いました。

障がい者が取り残されないための仕組みについて話し合う

ピーポート甘木で障がい者支援に関する打ち合わせを行いました。写真左端は「ごろりんハウスの会」の中山氏(2017年7月16日、朝倉市)

災害によるストレスを抱えた子どもたちのために

朝倉市の避難所では、子どもからご高齢者まで幅広い年齢層の方々が生活されていました。避難所は、避難者が仮設住宅やみなし仮設へ入居するまでの最初の仮り住まいとなる場所です。しかし、仕切りも無くすぐ隣に他人が生活していたり、避難所周辺で避難指示が出るたびに大勢の人が避難してきたりと、入居者は不自由でストレスのたまる生活を強いられます。中でも子どもたちは、災害によるさまざまな負の影響を最も受けやすい存在と言われます。災害で受けたショックだけでなく、災害後、これまでとまったく違う不自由な避難生活が、子どもたちの心身にさまざまな問題を引き起こします。
AARは子どもたちの避難生活を少しでも良いものするべく、避難所のある杷木地区周辺で盛んな木工を取り入れた「木育」をボランティアで行っている企業などの協力を得ながら、子どものストレス発散などを目的とした支援を行いました。避難所内でのイベントのほかに、大きく気分転換ができるよう、うきは市の木育カフェでの木工教室を開催し84名の親子が参加しました。

木工教室で楽しむ子どもたちとAAR糸山.jpg

避難所のストレスを少しでも発散してもらおうと、親子対象に木工教室を行いました。写真左から2人目はAAR佐賀事務所の糸山麻耶(2017年8月5日)

AARが支援に入っていたサンライズ杷木避難所のほかにも、被災地全体で子どもに対する支援の必要性が高まっていました。朝倉市杷木地区は、もともと子どもたちが安心して遊べる場が少ない地域でしたが、今回の豪雨の影響によって、これまであった数少ない遊び場も流されたり、学校の校庭に仮設が立つなどしてほとんどなくなってしまいました。子どもたちの生活環境が悪化すると、子育て世代が被災地から離れてしまうことにも繋がります。そして、数年避難先で定住し、生活の基盤が作られてくると、そのまま被災地には帰ってこないという状況も発生します。このような観点からも、少子・高齢化が進む地域における子どもの生活環境改善は重要な活動です。
このような考えのもと、AARは発災前より朝倉市にプレーパーク※を設置するべく活動していた「すくすく朝倉の未来隊!」が、継続的に活動できるよう、活動に必要な遊び道具や運営費を支援しました。本支援で実施したプレーパークには、2017年8月の支援開始から2018年3月末まで、延べ1,077人の方々が参加しました。「子どもたちがのびのびと遊べる場所があるのは本当に助かる」「杷木まで迎えに来てくれるので参加しやすい」といった声をいただいています。

戸外で体を動かした後の記念撮影

平塚川添遺跡公園のプレーパークで、親子でおもいっきり体を動かして遊びました(2017年8月20日)

※プレーパークとは「自分の責任で自由に遊ぶ」をモットーとし、屋外での自由な「遊び」を通して得られるさまざまな体験や交流を通して、子どもたちに自主性や主体性、社会性やコミュニケーション能力を育むことを目的とした遊び場です。(世田谷区ホームページより)

2018年度も支援を続けます

今年度も引き続き、子どもたちに遊び場を提供する「すくすく朝倉の未来隊!」と、朝倉市で在宅避難者への個別支援を行っている団体「YNF」の活動を支援していきます。発生直後から現地で活動を開始できたのは、日ごろ皆さまがお寄せくださるご寄付があればこそでした。また、行政では対応しきれない個別のニーズに対応できるのは、緊急募金のお願いに多くの方がすぐにお応えくださったおかげです。あらためまして、心より御礼を申し上げます。

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

東京事務局 髙木 卓美

大学卒業後、音楽活動、民間企業や大学での勤務を経て、2014年4月にAARへ。東京事務局で福島事業と熊本地震緊急支援を担当。埼玉県出身

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