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活動報告
タイトル
カンボジアにおける障害者支援−自立への取り組み
報告者
東京事務局カンボジア事業担当 加藤 美千代
報告年月日
2007年10月
雑誌「ノーマライゼーション」2007年2月号掲載記事)
カンボジアNGO「発展のための車椅子」と「障害者のための職業訓練」のロゴ
新たに誕生したカンボジアNGO「発展のための車椅子」(左)と「障害者のための職業訓練」(右)のロゴ。デザインはカンボジア人職員自らが発案した
難民を助ける会では、設立当初よりタイ・カンボジア国境の難民キャンプにて障害者支援を行ってきました。また、1993年からは首都プノンペンにて障害者支援センターを運営。障害者の職業訓練と車イスの生産・配布を実施してきました。一昨年より、カンボジア人職員によって事業を運営するべく、決定権の移行を徐々に進め、2006年10月、ついに2つの事業をカンボジアのNGOとして登録しました。ただし、当面は当会が資金的にも企画運営についても支援を継続していきます。
カンボジアにおける障害者支援の現状
車椅子を製造する職員
車椅子を製造する職員。車椅子の製造・配布に関わる8名は、皆身体に障害を持つ職員である

カンボジアでは、他の途上国と同様に、社会福祉分野の優先順位は非常に低い。障害者支援を統括する社会福祉省は国家予算が最も分配されにくい省庁のひとつである。2007年1月現在、障害者の権利を保障する障害者基本法は制定されておらず、一部の戦争被災者を除いて、障害者は政府から何の保障も受けていない。

総人口の3.9%(約56万6千人)を占めるというカンボジアの障害者のなかには、社会的にも経済的にも限られた状況の中で、生きるか死ぬかという厳しい生活を送っている者が現在も多い 。また、紛争終了後も市民を傷つけ続ける「地雷」の存在で悪名高いカンボジアでは、年間800名以上がいまだに地雷や不発弾の被害にあっている 。

このような状況のなかで、障害者の医療、職業、社会リハビリテーション活動は主にNGOが担っている。障害者の経済的・社会的自立を目指して職業訓練を実施するNGOは当会を含めて4団体(2006年現在)で、全国に合計10のセンターを運営している。車椅子工房については、3つのNGOが細々と車椅子の製造・配布を実施している状況だ。

■自立への道
パリ和平条約締結から15年を経た今、カンボジアで活動する国際NGOの数や、外国人が中心となった事業運営方式は減少傾向にある。カンボジア人がこの十数年間に事業運営力をつけてきたことがこの変化の一因であろう。

難民を助ける会は2000年頃から事業の方向性について話し合いを始めた。そして2003年度に実施した事業評価をきっかけにして、本格的に自立に向けた活動を開始した。

事業が「自立」することには様々な危険がある。「外国」に基盤があることが社会的地位となるカンボジアにおいて「国際NGO」という看板がなくなることは様々な保護の消滅を意味している。例えば、不当な献金要求や政治的圧力がかかる危険が増す。また、資金力が低下することも多い。しかし一番大きな問題は、現地職員の緩衝材でもあった外国人がいなくなることで起こる人間関係のバランスの崩れであろう。既にカンボジアNGOとして活動している他団体の様子を見ても、一番の問題は資金力よりも組織内の人間関係の悪化ではないかと思わされる。

こうした危険があるにも関わらず当会が自立を決めた理由として、当会カンボジア事務所で10数年間勤務しているベテラン職員、特にリーダーに十分な事業実施能力がついていることがあげられる。また「呼び水となる活動」を展開する当会としては、事業開始時に比べて障害者支援分野に取り組む団体が増えていることから、積極的に関与していく必要性が問われたこともある。とはいうものの、カンボジアにおける障害者支援の状況は決して充分でないことから、完全撤退は選択しなかった。

自立に伴う危険要因の回避については慎重に議論が交わされた。しかし、慎重になりすぎて数年間身動きがとれなくなっていたこと、実際にカンボジアNGOとして活躍している団体が存在していることなどから、「支援を止めるのではないから、理想の姿を目指してできるところから前に進んでみよう」という気持ちで自立へと踏み切ったわけである。

■自立の計画
そこで立てられた自立への計画は次の通りである。2事業を現地法人化し2つのカンボジアNGOを誕生させる。その後最短3年間は難民を助ける会が人的、財政的支援を継続していく。ただし、支援の度合いは段階的に減らしていく。日本人駐在員は常駐せず、事業運営は基本的にカンボジア人に任せるが、必要な場合はメールなどを通して助言などを行う。また、東京本部から3ヶ月に一回程度の現地出張を行い、様子を見る。この方法でまずは進めてみることにした。

■具体的な取り組み −「できない」から「やってみよう」

「障害者のための職業訓練」の職員一同
「障害者のための職業訓練」の職員一同。右から2人目がダイレクターであるソチェット氏

方針の決定を受けて、現場で実際に行ったことは、現地法人化の方針を知らせる、受け入れてもらう、やる気になってもらうの3点につきる。

現地法人化を知らせるタイミングは難しい。やる気を失った全職員が辞職する例も他NGOでは起こっている。当会では今後の支援方法について大筋が見えてから、東京本部からの手紙も利用して、ミーティングの場を持ちカンボジア人職員に今後について伝えた。職員からは多くの質問が出され、長時間にわたる会合となった。

質問の内容をみると、カンボジア人職員にとって、この動きはかならずしも嬉しいニュースとして受け止められなかったようだ。「自分たちだけでは運営できない」「これからもずっと難民を助ける会に今までどおり引っ張っていって欲しい」という不安の声があがった。その一方で、方針変更の実感がわかず、難民を助ける会が引き続き全面的支援をしてくれるはずだと思う職員もいたようだった。

現地法人化を進めるにあたって、「自分達で積極的に考えて提案する、そして行動する」ことや、カンボジアでも運営資金を獲得することなど、現地職員にとって新しい調整が多くなった。その分、仕事も責任も増えるわけだから、それに耐えられず辞職する職員も数名いた。ちなみに、辞職した職員のなかには障害をもつ者はいなかったが、これは障害者の厳しい雇用事情もしくは事業に対する関心の高さを反映しているのだろうか。

一番苦労したのは、カンボジア人職員の気持ちを変化させることだった。「やったことがないからできない」という姿勢を「初めてだけどなんとかやってみよう」とするまでに半年以上かかった。自分たちが発展させていく団体だということを実感してもうらうために、目に見える変化を起こしていった。組織図のトップに位置していた日本人駐在員の名前を取り外し、組織の意思決定システムを変更した。駐在員専用の部屋をなくすなど、現地法人化後の事務所を想定して模様替えを行った。現地職員の責任が増えるだけでなく、事業の達成感をもってもらうために、意思決定範囲を広げた。

日々の業務では、自分が仕事をしないようにした。小さな仕事を一つするにも、やり方をカンボジア人職員と一緒に考え、わからないところを説明し、実行し、見直し、再チャレンジということを繰り返した。自らがやればすぐに終わることが3日間かかることもあった。仕事を任せすぎて失敗することもあり、バランスを保つのに苦労した。

ある日、「資金が足りなくなった場合は、僕の給料を減らしてもいいから車椅子を作りたい」という言葉を一人の職員から聞いた。「カンボジアの事業はカンボジア人たちが自分達で発展させていく」という自覚を持ったカンボジア人職員の変化は徐々にその言葉や行動に表れてきた。

■課題
現在直面している課題は、現地での持続的な資金調達である。カンボジア政府社会福祉省への働きかけは他団体と協力して継続的に行っているが、まだ時間がかかるといわれている。カンボジア国内での協力者や協力団体を募り収入源を確保するのは難しく、どの団体も頭を悩ませているところである。現在は、カンボジア人職員と一緒に、収入源の確保についてアイデアを出しあっている段階である。懸念していた人間関係の悪化は今のところそれほど大きな問題となっていない。

しかし、難しい局面を迎えるのはむしろこれからである。自立への道をマラソンに例えると、現在のカンボジア事業の状況は、走り出す勇気とやる気を持ったランナー(職員)がスタートラインに立ち、走り出したところではないかと思っている。

■終わりに
カンボジアに誕生した2団体の状況を東京から見ていると、彼らの奮闘ぶりを頼もしく思う日と、カンボジア人の長所でもある「のんびりさ」をもどかしく思う日が日替わりでやってくる。

難民を助ける会の事業は現地法人化し外国人不在となったが、これが事業の「自立」であるとは考えていない。孤立することが自立ではなく、事業に関わるカンボジア人が自ら考え、意思決定していく力をつけることを自立だと考えている。そういった意味では、事業の自立は障害者の自立生活運動と共通点が多い。

自立に向けてはこれからが正念場だと思うが、カンボジアを支援してくださる日本の皆様の気持ちを大切にしつつ、少しでもカンボジアの障害者のおかれている状況が良くなるよう、自立発展を目指して支援を続けていきたい。

 
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