駐在員・事務局員日記

理事長ブログ第18回「新しい安保法制について考える➂ ―今こそ積極的中立を」

2015年07月28日  会長ブログ
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執筆者

AAR理事長
長 有紀枝(おさ ゆきえ)

2008年7月よりAAR理事長。2009年4月より立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科教授。2010年4月より立教大学社会学部教授。

記事掲載時のプロフィールです

AAR理事長、長有紀枝のブログです。

終戦から70年を迎える今年、AAR Japan[難民を助ける会]は創立36周年を迎えます。日本が荒廃の中から復興を遂げ、援助を「受ける」側から、世界有数の援助国となり、他方で未曾有の大災害も経験した昭和から平成にかけてのこの70年間。その後半のちょうど半分の期間、皆さまに支えられ、AARは60を超える国や地域で活動してまいりました。 この間、私たちが大切にしてきた活動の指針が、困難な状況の中でも、特に弱い立場にある方々の傍らで活動すること、そして、紛争や対立が続く地域や社会にあって、立場や属する集団(民族・部族や宗教、政治的立場など)の違いを超えて、すべての人に支援を届けることができるように、中立・不偏不党の立場で活動することです。

私たちが大切にしてきたこの「中立」は、日常生活においても、争いごとを前にして、よく使われる言葉でもあるように思います。しかしながら「中立」という言葉は、人道の敵ともいわれる「無関心」や、面倒なことには関わりたくない、自分には関係ないという消極的な姿勢と同じ意味になる危険性もはらんでいるように思います。
これに対して、私たちAARが目指してきたのは、こうした「消極的な中立」ではなく、対立する世界のただ中にあって、どちらの側にもくみせず、「困った時はお互い様」の精神で、まさに困っている方々に手を差し伸べようとする「積極的な中立」です。

安全保障関連法案の参議院での審議が始まりました。
国際情勢が変化している、ということ日々実感しています。こうした情勢を前に、あの悲惨な戦争、そして広島・長崎を経験した日本人の一人として、無関心の対極にある日本の国際貢献や、日本の安全保障をめぐる取組の根本にあるべきは、国際理解や、中立な国としてソフトパワーによる、官民をあげたオールジャパンの信頼醸成や、国際交流・協力、予防外交だと考えます。
私たちはもはや1ヵ国では生きられません。国際社会の一員として、混迷する世界の中で果たすべき役割も、責任も有していると思います。それ故、世界の出来事に対して無関心は許されないと思いますが、他方で、無関心の対局は、軍事力の行使をめぐる議論ではなく、日本の強みを生かした外交力の強化や近隣諸国との信頼醸成の取組、それによる安全保障と考えます。
日本だからこそできる、積極的な中立主義を貫き、紛争当事者としてではなく、中立な存在として、世界の課題を解決に導く役割を担うこと、それによる防衛力の強化をこそ期待します。これらは官民をあげての取り組みであるべきですが、「民」とは消費者として、選挙民としてもっとも影響力を行使できる私たち、一人ひとりだと思います。 (2015年7月28日)

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