駐在員・事務局員日記

理事長ブログ第39回「南スーダンの陸上自衛隊撤収に思うこと」

2017年03月14日  会長ブログ
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執筆者

長 有紀枝

2008年7月よりAAR理事長。2009年4月より立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科教授。2010年4月より立教大学社会学部教授(茨城県出身)

記事掲載時のプロフィールです

AAR理事長、長有紀枝のブログです。

 2017年3月11日、東日本大震災の発生から6年目のこの日、全国紙の朝刊1面には、「南スーダン陸自撤収」の大きな見出しが踊りました。この前夜3月10日、首相官邸で開催された国家安全保障会議(NSC)において、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣している、陸上自衛隊の施設部隊を5月末に撤収させる方針を決定したとの報。それが政府のどのレベルの判断なのか、答弁や説明をうかがっても、経緯や真相はわかりませんが、南スーダンは、現在、日本が唯一参加するPKO。昨年11月には「駆け付け警護」の新任務の付与が閣議決定されたばかり。あまりに唐突であったことは事実です。

 南スーダンへの自衛隊派遣は、新たな安保法制下での実績づくりであるとも取りざたされ、また「駆け付け警護」を巡って、さらに「5原則」を満たすか否かという論戦が展開されました。なかには、「自衛隊が駆け付け警護をしなければならなくなり、自衛隊員が危険に晒されるから、NGOには、現地にいてもらっては困る」、というようなあまりに倒錯した議論さえ(ブラックジョークであったのかもしれませんが)耳に入るようになりました。
 しかし、AAR Japan[難民を助ける会]にとっては、「駆け付け警護」問題は、直接に関係のあるものではありませんでした。昨年から今年にかけてのAARの事業地は、昨年11月時点で17ヵ国、その後、ネパール、ハイチ、バヌアツの緊急支援が終了し、インドが加わり、現在は15ヵ国。アフガニスタンやパキスタン、シリアやトルコ、ケニアやスーダンといった危険地や危険地の隣国を含みます(アフガニスタンとシリアは事業地ですが、日本人は駐在していません)。
 自衛隊の「駆け付け警護」問題が、連日メディアを賑わし、私たちの活動への影響を問われましたが、自衛隊が派遣されているのは、17ある事業地のたった一つ(それも、治安上の理由から日本人の駐在が許可されなくなり、遠隔の事業管理の限界から私たちは2015年暮れに撤退しています。この間の詳しい経緯は当ブログ第22回23回24回をご覧ください)。南スーダンは特殊ケースであっても、特別な場所ではありません。その17分の1ヵ所のみで行われている特殊な活動に、「駆け付け警護」が付与されようが、私たちの安全管理に特別な意味はもちませんでした。

 個人的にも、「駆け付け警護」問題とその報道のされ方には大きな疑問がありました。議論されるべきは、自衛隊員の危険云々ではなく、日本の国益には直接関係のない国でおきている、大規模な人権侵害、文民への虐殺といった暴行に対し、私たちの国は、どこまで犠牲を払うのか、払う用意があるのか、あるいは見過ごすのか。そういう点であるように思います。正解があるわけではありません。民主主義国家において、それを決めるのは政治家であり、その政治家を選ぶのは私たち選挙民です。政治家の独断と言われるかもしれませんが、政治家は世論に敏感です。現に、1994年のルワンダの大虐殺において、ベルギー軍が、まさにこれから虐殺が激しくなる時に撤退を決定したのは、ジェノサイド(集団殺害)のまさに初日に、穏健派の大統領を警護していた若きベルギーの兵士、10人が惨殺された事態を、世論が許さなかったからです。1995年夏のボスニア・ヘルツェゴビナのスレブレニツァにおいて、同じく、ジェノサイドとされる事件が起きつつあるまさにそのとき、適切なタイミングでNATOによる空爆が実施されなかったのは、地上軍を派遣していたオランダ政府の意向が強く働いたからです。
 私たちは他国の、私たちと同じような普通の市民が家を奪われ、教育の機会を奪われ、普通の生活と日常を奪われ、略奪され、レイプされ、命を奪われていくさまを、知らないこととして見過ごすのでしょうか?しかし、そこに介入していくには、こちらの側にも大きなリスクが伴います。私たちはそのリスクをどこまで受け止めることができるのでしょうか?
 「駆け付け警護」の議論の前に、そうした大前提の議論をこそ、すべきであったと思います。
 今夜から南スーダン難民支援の最前線にある、AARの2つの事業地に行ってきます。ウガンダとケニア。ジャパン・プラットフォームと、外務省のNGO連携無償資金のご支援を受け行っている活動です。
 南スーダンからの自衛隊撤退に際し、政府は、南スーダンに国連経由で600万ドル(約6億9千万円)の支援を表明しました。飢餓状態といわれる南スーダンに絶対的に必要な支援策ですが、日本の顔の見える支援ではありません。国連のみならず、日本のNGOもこの地に展開しています。南スーダンは戦闘が続き、非常に危険である一方で、全土にわたりそうした状況が続いているわけではありません。政府には、一律に危険地と指定するのではなくて、他のドナー国同様、安全が確保される場所で、経験を積んだNGOの、危険地での経験を積んだ職員による支援活動を、制限や禁止ではなく、応援し支援する方法を期待したいと思います。日本のNGOのプレゼンスは、武力に寄らない広い意味の国益に間違いなく資していると考えるからです。
  南スーダン難民支援を行う、ウガンダ・ケニアの事務所には、多くの現地人職員とともに、20代~30代の邦人職員5名が駐在しています。雨宮知子さん、兼山優希さん、嶋脇武紀さん、吉川剛史さん、河津志貴保さんという面々、青年海外協力隊のOGや元商社マンです。
 今回の出発準備の中でお土産の希望があるか聞きました。一応上司の私に遠慮してか、調整を担当してくれている、東京事務局のケニア事業担当の粟村友美さんは「何もないそうです」。聞くだけやぼだったか、と思ったのもつかの間、出発間際になって、「やっぱりあるそうです」に変わりました。 「何でも言って」への回答は、まさかの「焼酎!」。焼酎は飲まない私の困惑が顔にでたのか、すかさず、粟村さんがたたみかけます。「黒霧島がいいと思います」。さらなる困惑をよみとったかのように「紙パックもあります」「コンビニとか、近所のスーパーで売ってます」。もう爆笑しました。かたやウガンダチームの所望品は、カレー粉とそばでした。5人の中で若手の男性職員は大の甘党と聞いています。甘いものも用意しました。行ってきます。 

(2017年3月14日)

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