駐在員・事務局員日記

バングラデシュ:一見ではわかりません

2020年02月21日

30代新人駐在員。ベンガル語はわからず、まだまだ気付けないことも多く学びを重ねる日々ですが、バングラデシュのエキスパートである大学教授とNGO職員の方々のフィールド調査について行って少しずつ見えてきた、コックスバザールの住民の日々の生活を、少しお届けします。(執筆者:宮地 佳那子)

にぎわう市場

2019年12月末、シャプラニール=市民による海外協力の会監事で、大橋正明・聖心女子大教授を船頭に、ご厚意で団員に加わらせていただき、コックスバザール・ウキア郡のコートバザール地区に向かいました。ここには地元の人が集う活気ある市場があります。

市場では葉っぱのようなものが竹のかごに積まれている。かごの脇には椅子に座った男性がお店番のようにいる。道路は土で、バイクが止められていたり、多くの人が行き交っている

ウキア郡のコートバザール地区の市場(2020年1月20日)

その一角に、毛布、石けん、歯ブラシなど生活用品を取りそろえた店が軒を連ねています。ミャンマー避難民が暮らすクトゥパロン難民キャンプから車で数十分の場所にあるこの場所では、難民向けの支援物資がキャンプから流出して、通常より安く売られており、地域住民が買い求めています。

石けんは一度封が開かれたのか、テープで止めているものもあります。目をひくのは生理用ナプキンの多さ。ある店では洗って再利用できるナプキンが20タカ(約26円)で、使い捨てナプキンは1袋40タカ(約52円)で売られていました。難民キャンプで暮らす女性は、月経時に布を使う場合が多いので、使わない支援物資をなるべく売って、ほかに必要なもの買う費用に充てているようです。多くの人が暮らしさまざまなニーズがある難民キャンプ。それぞれが抱える事情で広がってきた市場なのかもしれません。

そんな女性向け製品も多いなか、売り手も買い手も断然男性が多く、小学生くらいの男の子も働いています。

男の子がトタン屋根の小さなお店の中に胡坐をかいて座っている。周りには棚があり、UNHCRと書かれた復路などが所狭しと積まれている

地域住民向けに売られている支援物資(2019年12月27日)

村に暮らす女性にインタビュー

この市場に行く直前には、クトゥパロン難民キャンプに隣接するモハメッド・アリビタ村を訪ねました。こちらはコートバザール地区より静かで、田畑が多いです。このような、難民キャンプがある地域や隣接する地域はホストコミュニティと呼ばれます

この村の女性は、家事や育児や水汲みなどのお金を得られない労働が多いそうです。もし、お金が必要な場合は1日6時間400タカ(約520円)程度で、道路工事の日雇い労働をする女性もいます。男性は、工事の手伝い、警備員、市民の足であるリキシャ(自転車のように漕いで走る三輪タクシー)の運転手など、現金収入を得る仕事の選択肢が多い分、進学せずに働くことも少なくないそうです。男女ともに、まったく学校で教育を受けたことがない人にも出会いました

3輪の大人用自転車の後輪部分に、大人二人くらいが座れるスペースがあり、小さな屋根もついている。お店の前の道を3台のリキシャが走ったり止まったりしている

リキシャと運転手たち(2019年11月28日)

続いて、この村の女性たちだけで民家に集まってもらい、分娩や通院など医療に関する話を聞きました。私を含む同行者からの質問などの通訳は、シャプラニールの内山智子・バングラデシュ事務所長がしてくださいました。

難民キャンプ内では施設分娩が主流でも、キャンプから少しでも出たホストコミュニティでは自宅出産が主流で、専門知識がない妊婦の母親や伝統的助産師が付き添うことが多いそうです。なぜかと聞くと「女性が外に出るのは良くないし、出産時にもし何かがあったら病院に行く」とのこと。ただ、「何かあった時」に頼みの国連機関や国際NGOが運営しているクリニックは、通常15分程度で行けても、渋滞していると1時間くらいかかってしまうこともあると話していました。大橋正明・聖心女子大教授は、難民支援関係の車両などが渋滞に関係していると説明してくださいました。

また、この村では生活が厳しい住民が多いですが、ある10代の女性は、「中期中等教育修了証(標準15歳で取得)(注)を得た後には、英語やパソコンのトレーニングを受けて、将来はエンジニアになりたい」ときっぱりと言いました。それを隣で聞いていた女性は「娘には彼女のように教育を受けさせる」と話していました。そんな話をきいていると、自然とみなさんを応援したい気持ちになりました。

(注)バングラデシュでは、初等教育が5年間、前期中等教育が3年間、中期中等教育が2年間、後期中等教育が2年間ある。すべてを修了後、大学へ進学できる教育制度となっている。

大橋正明・聖心女子大教授が、2人の男性の村人と肩を組んで記念撮影をしている

大橋正明・聖心女子大教授と、インタビューに訪れた村にくらす方々(モハメッド・アリビタ村、2019年12月27日)

市街地で働く人に共通していることは・・・

クトゥパロン難民キャンプから、車で1時間半ほどの、AAR Japan[難民を助ける会]事務所があるコックスバザール市街地でも、外で働いている人は男性が圧倒的に多いです。野菜や魚市場も、キオスク(雑貨などの小売店)も、仕立て屋も、リキシャや、トゥムトゥム(電動三輪車)の運転手も。男の子がココナッツをナタで割っている姿もみかけます。軽装で、高いところで働いている男性もいて、見上げるとヒヤリとします。

高いコンクリートのビルがあり、簡易な作りの足場にヘルメットなどはかぶらずに、8名ほどの男性がビルの壁面で作業をしている

新年、珍しく雨が降るなか、肌寒い朝から軽装で働く人たち。気をつけて!と思わずにはいられません(2020年1月1日)

竹っできた梯子が電柱に立てかけられている。梯子の上で工事をしている男性は、ヘルメットなどはかぶっていない

電線工事でしょうか?無事に工事が終わりますように(2020年1月3日)

三輪のバイクで、運転手が前、お客さん2名ほどが後ろの席に乗る形をしている。屋根がついているが、左右には壁はない

こちらがトゥムトゥム(2019年12月18日)

生活を垣間見て

AAR現地スタッフであるバングラデシュ人女性は一人暮らしをしているのですが、コックスバザールでは女性の一人暮らしは珍しく、大家に何度も部屋の契約を断られたそうです。「親戚に警察官がいるので、何かあったら彼が責任をとる」と言って、何とか今の部屋を契約しました。夜も女性が一人で歩いているのは珍しいです。

「女性は制限が多くて大変」というのが、コックスバザールの日々の生活の住民を垣間見たり、フィールド調査に同行したりして感じた現在の感想です。でも、まだわからない、知らない世界ばかりなので、それを少しずつ知っていくのが駐在生活の楽しみでもあります。

かごの中にはぎっしりと魚が詰め込まれている。男性がその周りに座ったり買い物をしている

AAR事務所近くの市場(2019年12月14日)

ミシン台に男性が座り、ズボンの生地を縫う作業をしている

AAR事務所近くの仕立て屋(2019年12月31日)

さまざまな視点から見る必要性

最後に、ダボス会議が2019年11月に発表した、各国の男女格差を測るジェンダー・ギャップ指数別ウィンドウで開きますでは、最も男女平等に近いとされる1位はアイスランド、2位はノルウェーでした。バングラデシュは、首相が女性ということもあり、153ヵ国中50位と、健闘しています。バングラデシュは一見したところ、ジェンダーの面では課題が多そうなのですが、政府はトランスジェンダーの人びとを「第三の性」と認定したり、一部の大学は女子の学費軽減を導入したりと、ジェンダー主流化や女性のエンパワーメントの気運も感じられます。

残念ながら、日本は前年より順位を下げ、過去最下位の121位に転落。「女性活躍」を掲げ、教育や保健(女性の寿命の長さや妊産婦死亡率の低さ)など、日常生活レベルでは極端な差別や制限を感じなくても、政治や経済界は圧倒的に男性中心。宗教や慣習では割り切れない、根強い積み重ねがあります。これこそ一見ではわからないと思いました。

執筆者

バングラデシュ事務所
宮地 佳那子

中学の頃から国際協力に興味を持つ。大学時代にオーストラリアへ留学した際、国際人権NGOの活動に携わる。新聞記者を経て、母子保健が専門のNGOへ転職。また、平和構築の修士号を取得。ジェンダーの観点から難民支援に関わりたいとAARへ。2019年11月からバングラデシュ事務所駐在。神奈川県出身。

記事掲載時のプロフィールです

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