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対人地雷廃絶はどこまで進んだのか―オスロサミット報告

2019年12月26日  地雷対策

2019年11月25日から29日にかけて、ノルウェーの首都オスロで「対人地雷禁止条約(オタワ条約)第4回再検討会議」(以下、オスロサミット)が開催され、AAR Japan[難民を助ける会]から理事長の長有紀枝と東京事務局の紺野誠二が、ICBL(地雷禁止国際キャンペーン)のメンバーとしてオブザーバー参加しました。紺野からの報告です。

再検討会議とは

オタワ条約は、対人地雷の使用、貯蔵、生産、移譲等を全面的に禁止し、締約国の貯蔵地雷の廃棄や埋設地雷の除去を義務付けています。この条約が1999年に発効してから、2019年11月現在までに日本を含む164ヵ国が批准または加入しています。再検討会議は、条約が規定する事項についての成果や進捗を確認し、次の会議までの行動計画を採択するために、5年に1度開かれています。今年は条約発効から20年目にあたり、第1回目のナイロビサミット、第2回目のカルタヘナサミット、第3回目のマプートサミットに続き、第4回目の会議でした。締約国164ヵ国のうち93ヵ国が参加し、加えて国際機関や国際NGO、および非締約国からミャンマーをはじめとする13ヵ国がオブザーバー参加しました。会場には政府関係者に加え、国際NGOや地雷被害者らが集い、様々な議論が繰り広げられました。

開催国であるノルウェーは、地雷対策を積極的に推進してきた国で、1997年には本条約の起草会議もここで開かれました。オープニングセレモニーが催されたオスロ市役所ホールは、毎年12月10日にノーベル平和賞の授賞式が開催される場所でもあります。

5年間で大きく後退した地雷を巡る状況

前回マプートで開催された第3回再検討会議以降、新たに3ヵ国が条約に加入し、31ヵ国が、条約で義務付けられている地雷敷設地域における対人地雷の廃棄を完了しました。これで締約国は164ヵ国となります。しかし、アメリカや中国を含む33ヵ国はまだ条約に加入していません。そして未加入国の多くがアジアにあります。

加入国は増えたものの、地雷を巡る状況は大きく後退したことが今回の会議で明らかになりました。それまでの15年の堅調な地雷廃絶の流れが停滞したといってもよいでしょう。国際的に地雷対策に割かれている資金は増加したものの、被害者数は大幅に増加しています。「ランドマインモニター 2019」によれば、記録された被害者数は、2013年には3,457人であったところ、2018年は6,897人とほぼ倍増しています。子どもの被害者も大幅に増え、民間人の被害のうち54%を子どもが占めるようになっています。また、この2年間条約に新規加入した国はありません。

行動計画の3つの特長―ジェンダー、地雷回避教育、指標

前回のマプートサミットで、「2025年には対人地雷による被害を終結させよう」という目標が宣言されました。その期限まで残り5年の折り返し地点となった今回の会議の席上、ICBLは締約国に対して貯蔵地雷の廃棄や地雷除去、被害者支援等の条約義務の履行を求めました。

今回採択されたオスロ宣言は15のパラグラフから成っており、最初のパラグラフで、地雷をなき世界、被害者の完全かつ平等なインクルージョンという、締約国の共通の目標を達成するべく努力していく、というコミットメントが示されています。他方、7番目のパラグラフでは被害の増加している現状に憂慮が示され、対人地雷や対人地雷と同様の働きをするIED(即席爆発装置)の使用禁止を訴え続けていく、という意思が示されています。また、14番目のパラグラフではオタワ条約を履行することが持続可能な開発目標(SDGs)や誰も取り残されない未来(Leave no one behind)を達成するために貢献するものである、として、オタワ条約とSDGsとの関係が示されました。また、マプートサミットから5年間の条約の履行状況を報告した文書も採択されました。

今後の5年間の活動を進めるための行動計画は、過去の行動計画と比べて三つの特徴があります。第一にジェンダーの視点で地雷対策に取り組むべきことが強調されたことです。国際協力の分野ではジェンダーの視点を取り入れることが重視される傾向にあり、地雷対策でもその流れに乗ったといえます。第二に地雷回避教育の重要性がハイライトされたことです。過去の行動計画では章立てされていなかった地雷回避教育が、一つの章として個別に取り上げられました。地雷除去が進むのが最善ですが、なかなか進まない現状の中で、被害にあわないようにすることへの認識が高まったと言えます。AARをはじめ長年地雷回避教育に取り組んできたNGOにとっては、やっと回避教育に対して国際的な理解が進んだ、と前向きに受け止められるものです。第三に、行動計画の別添文書に「指標」が設けられた、ということです。オスロ行動計画のすべてのアクションに指標が設けられたことで、活動の評価をすることが出来るようになった、といえます。

「最も称賛されるべきは、現場で活動する地雷除去要員」

会議中、領土問題を抱える国の発言(例えばイギリスとアルゼンチンで領土をめぐる議論が続いているフォークランド諸島(マルビナス諸島)や条約の非締約国が対人地雷を使用していることを指摘した際などに、緊迫感が走ることもありました。しかし全体としては穏やかな雰囲気で進められていました。

現場で活動する実務者にとっては、会議は全体的に好ましいものであった印象を受けます。実現可能なことを着実に進めていく、それが行動計画にも反映されていると思います。あとは日々淡々と現場での活動を続けていく、それに尽きると思います。実際に会議の席上で「最も称賛されるべきは、現場で活動している地雷除去要員たちである」との発言もなされていました。

 

今回のオスロサミットでは、この20年間に達成された成果を評価する一方で、引き続き条約未加入国が残っていることや、地雷が新たに使用された事例、貯蔵地雷の廃棄期限が守られていない事例など、多くの課題も確認されました。採択された行動計画や宣言に沿って、今後締約国がさらに地雷対策に力を入れることを願いつつ、AARも地雷被害のある現場での支援活動を進めていきます。

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

東京事務局 紺野 誠二

2000年4月から約10ヵ月イギリスの地雷除去NGO「ヘイロー・トラスト」に出向、不発弾・地雷除去作業に従事。その後2008年3月までAARにて地雷対策、啓発、緊急支援を担当。AAR離職後に社会福祉士、精神保健福祉士の資格取得。海外の障がい者支援、国内の社会福祉、子ども支援の国際協力NGOでの勤務を経て2018年2月に復帰。茨城県出身。

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