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スーダン:人々を苦しめる感染症の対策を開始しました

2013年06月11日  スーダン感染症対策
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AARは2006年よりスーダンで地雷対策に従事してきましたが、今年から新たに現地のNGOと協力して、感染症対策も始めました。

放っておくと手足を切断することもある「マイセトーマ」

マイストマにより患部が腫れあがっています

マイセトーマの症状が進行するにつれ患部が腫れあがって変形した足(2013年3月28日)

マイセトーマ。日本ではほとんど知られていませんが、土壌から特殊な菌が手足の傷口を経由して体内に入り、筋肉や骨を徐々に侵していく感染症です。症状が進行するにつれ患部が腫れて変形し、重度の場合は手足を切断するしかなくなります。

アフリカやインド、南米の熱帯地域で見られ、スーダンは最も感染者の多い国の1 つ。 首都にあるハルツーム大学のマイセトーマ研究所に登録されている患者だけで6,000人以上。それ以外にも、地方の農村で治療を受けられない人々が多くいます。完治には専門医による外科手術と特定の薬を一定期間服用する必要があり、国内では首都ハルツームにあるハルツーム大学付属のソバ病院1ヵ所でしか総合的な治療を受けることができません。また、正確な知識が普及しておらず、単なる「できもの」として誤った治療をしたり、放置してしまう例が多数あり、毎年多くの感染者が手足を失っています。

ボランティアの医師たちにより無料で手術が行われました

ソバ病院の医師たちがボランティアで手術を行ってくれました。マイセトーマ研究所撮影(2013年3月28日)

AARは、地雷や不発弾被害者の支援について調査する過程で、地雷の被害者同様に手足を切断するリスクが高いこの病気について知りました。農民など裸足で生活する人々が多い地方の農村部に患者が多く、白ナイル州もその一つです。マイセトーマ治療の権威であるソバ病院マイセトーマ研究所のファハル医師は、同州アンダルス村で調査を実施。多くの住民がマイセトーマに罹患していることを知り、治療を行いたいと考えましたが、村の病院には手術ができる機材もスタッフも不足していると嘆いていました。

そこでAARはアンダルスの病院へ必要な医療機材や器具を提供し、マイセトーマ研究所とソバ病院がボランティアで医療スタッフを派遣して手術や治療を行うことになりました。3月下旬にAARスタッフ5名と医療スタッフ8名が3日間村を訪問し、2日間で38人の患者の手術を実施しました。手術はすべて無料で行われ、アンダルス病院の医師と看護師が患者の術後の経過を診ています。

リーシュマニア症やマラリア予防のため殺虫剤を散布

室内に殺虫剤を散布し、感染症を予防します

民家を回り、安全基準を満たした殺虫剤を散布します。感染症を媒介する蚊やハエだけでなく、被害の多いサソリも駆除できます(2013年4月30日)

「リーシュマニア症」は、サシチョウバエという体長2ミリほどの吸血昆虫が媒介することにより皮膚や内臓を患う感染症です。特に内臓を侵された場合は死に至ることもある危険な病気です。白ナイル州デュエム郡シャバシャ地区では2012年1月~6月の間に17 人がリーシュマニア症と診断され、うち3人が死亡しています。感染してから数年たった後に発症するため、感染しても他の病気と誤認し、病院に行かず手遅れとなるケースもあります。

そこでAARでは、白ナイル州保健省のマラリア対策部門やデュエム郡などと協力して、シャバシャ地区の民家を回り殺虫剤を散布しました。感染症を媒介する蚊やハエ、また住民の被害が多いサソリも駆除することができます。シャバシャ地区ではここ数年財源不足のため殺虫剤の散布は行われておらず、蚊やハエが多く発生する原因のひとつとなっていました。AARでは、今後保健省と協力して、殺虫剤を年に4回ほど散布し、害虫の駆除を行います。殺虫剤散布のため訪問した民家では、「これから雨季に入って蚊やハエが多くなるので助かります」と話していました。

診療所を開き、住民を苦しめるマラリアの治療薬を配付しています

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AARが開設した診療所。3月下旬に多くの住民が参加するなか開所式を行うことができました。挨拶する白ナイル州人道支援局長のイスマイル氏(2013年3月26日)

スーダンで最も被害が大きい感染症はマラリアです。ハマダラ蚊に刺されて感染するマラリアは、発熱や発作、貧血などを引き起こし、早期に治療を行わないと重症化し、死亡することもあります。
シャバシャ地区一帯は、地質が粘土状で水はけが悪く、マラリアを媒介する蚊が発生しやすいため、多くの住民がマラリアに感染してしまいます。シャバシャ市と周辺の複数村を合わせたシャバシャ地区にある病院1ヵ所と診療所2ヵ所のデータによれば、2012年1月~6月の外来患者9,482人のうち、28%にあたる2,699人がマラリアの患者で、特に5歳以下の患者の陽性率は47%にのぼっています。

そこでAARでは、現地医師の主導するNGOイスラハと提携し、現在市内に1ヵ所しかない病院以外にも住民がマラリアの治療を受けられる場所を提供しようと、診療所を開き運営を支援しています。また、貧しい人々も診察が受けられるよう、白ナイル州保健省のマラリア対策部門に依頼しマラリア治療薬を無料で提供してもらうほか、注射薬やそのほかの薬品の調達も支援しています。

地雷対策での経験を活かし、感染症の教材開発や講習会を開催しています

ポスターを使って、地元の人々に感染症について伝えるAARの川越東弥。

「手や足の傷から感染します」「病院で正しい治療を受けましょう」ポスターを使って住民にマイセトーマについての正しい知識を広めます(左は川越東弥)(2013年3月28日)

感染症についての正しい知識を住民へ広めるための活動も行っています。
マイセトーマについては、これまで地雷対策で培った教材開発の経験を活かし、医師の監修のもとポスターを製作し、地域住民向けの講習会を開催しています。
また、知識の定着をはかるため、講習会で学んだ内容が記載されたノートを参加者に配っています。ノートにはマイセトーマを疑ったら病院に行って正しい治療を受けましょうというメッセージがイラストつきで示され、子どもたちが学校の勉強に利用しながら長く使えるように配慮しました。受け取った子どもたちは大喜びです。

マラリア予防については、今後保健省マラリア対策部門と協力し、蚊帳の配付と同時に講習会を開き、蚊帳の正しい使用方法を伝えていく予定です。連日40度に達する暑いスーダンではベッドを家の外に出して寝るのが一般的で 、場所によっては漁業の網に使われたり、ウェディングドレスに加工される例もあるからです。

「地域の人々のために何かできることをしたい」という地元の人々や団体と協力しながら、今後もスーダンの人々の健康を守るために寄与していきたいと思います。

「ぼく、マイセトーマあるよ」11歳アハメドくんを救った手術

「ぼくは大丈夫」最後まで言い張っていましたが・・・

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アハメドくん(11歳・左から2人目)の親指の付け根には、マイセトーマの症状がありました(右は医療スタッフのサラ。2013年3月27日)

私たちがアンダルス村に着いた初日、マイセトーマの原因分析をするため、村内に散乱する家畜の糞を採取しました。
たくさんの子どもたちが裸足で寄ってくるなか、「これはマイセトーマの原因を調べるためにやっているのよ」と話すと、「ぼく、マイセトーマあるよ」と言って足を見せてくれた少年がいました。アハメドくん(11歳)です。彼の右足の親指の付け根には、確かにマイセトーマの症状が出ていました。医療スタッフのサラが、そのまま放っておけばもっと広がること、病院で適切な治療を受けなければいけないこと、ハルツームから医師が来て無料で手術をするから病院へ行くよう何度も伝えましたが、本人は最後まで「行かなくていい」「大丈夫」と言っていました。

「大好きなサッカーもまたできるようになって嬉しい」

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マイセトーマの手術を受けたアハメドくん(11歳)に付き添う母親(右)。早期に治療すれば完治します(左はAARの川越東弥。2013年3月28日)

しかし翌日、病院にはアハメドくんの姿がありました。昨日医療スタッフに説得されたあと、自分で病院に来て手術の登録をしたそうです。手術当日は朝から飲 まず食わずなのでおかしいと思った母親が尋ねると、「今日は病院で足の手術をしてもらうから、何も食べないようにと言われた。手術についてきてほしい」と いう答え。母親は驚いて、仕事を休んで一緒に病院まで来たそうです。

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手術の2ヵ月後にアハメドくん(中央)の足の状態を診に来たマイセトーマ研究所のファハル医師(右)。アンダルス病院のフセイン医師(左)にアハメドくんの状態について説明し、今後の診察を引き継ぎます。(2013年5月31日)

手術は30分ほどで終わり、その後控室を訪ねると母親がベッドで付き添っていました。「息子はサッカーが好きだから、ボールを蹴って足にあるマイセトーマの状態が悪くなったのかもしれない。ボールを蹴らないようにした方がいいのかしら」と母親が医師に尋ねると、「深部まで悪化する前に手術したのですぐに良くなります。傷口がきれいになればボールを蹴っても大丈夫」という答え。アハメドくんはそれを聞いて安心したようでした。AARがマイセトーマについての正しい知識を広めるために作成したノートを渡して、「新学期が始まったら学校でノートを使ってね」と言うと、頷いて早速読んでいました。

※この活動は、皆さまからのあたたかいご寄付に加え、ECC地球救済キャンペーンとアフリカ支援基金の助成を受けて実施しています。

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

スーダン事務所駐在 川越 東弥

2012年6月より東京事務局勤務。2013年1月よりスーダン事務所駐在。大学卒業後、英国の大学院で障がい学を学び、高齢者福祉施設などの勤務を経て、パレスチナで児童支援に約4年携わった後AARへ。北海道出身

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