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難民グローバル・コンパクトとこれからの難民支援:第4回公式協議にオブザーバー参加報告

2018年06月19日  緊急支援
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難民は社会を支える仲間――グローバル・コンパクトの意義

難民グローバル・コンパクト公式協議の会場にて

難民グローバル・コンパクト(GCR)第4回公式協議の会場(ジュネーブ、2018年5月9日)

「難民とは、アイデンティティではなく、経験です」

5月8日、ジュネーブで行われた難民グローバル・コンパクト第四回公式協議のサイドイベントで、シリア出身のモハメッド・バドランさんが私たちに語りかけました。彼は19歳の時、戦火の続くシリアからオランダに逃れ、24歳となった今、難民支援のNGOを立ち上げて600人のボランティアとともに同胞への支援を続けています。「難民」というフィルター抜きで、等身大の自分をみてほしい。「助けるべき人」ではなく、「社会を支える仲間」として私たちをみてほしい。私には、そんなメッセージに聞こえました。

難民グローバル・コンパクトとは、文字通り「難民に関する国際的な(グローバル)合意(コンパクト)」です。その内容は、2016年9月に「難民及び移民に関する国連サミット」で採択された「ニューヨーク宣言」の付属文書「包括的難民支援枠組み」と、その行動計画、ならびにフォローアップと評価方法です。

本年、UNHCR国連難民高等弁務官事務所の草案をもとに、ジュネーブ国連欧州本部パレ・デ・ナシオン内の国際会議場で各国政府代表による公式協議が行われています。

難民グローバル・コンパクトの目的は、先の草案では、i) 受入国の負担軽減、ii) 難民の自立促進、iii) 第三国へのアクセス拡大、iv) 帰還先国へのサポート、となっています。世界の難民、避難民の数が第二次世界大戦後最大の6560万人に膨れ上がり、避難先での滞在も長期化する一方、その実に8割以上が、自らも経済的課題を抱える途上国や中所得国に流れ込んでいることから、「より予測可能で公平な、負担・責任の分担のための計画」が必要、との声は以前からありました。難民グローバル・コンパクトは、その具体的な計画を示すことが期待されています。

支援現場のニーズを反映した合意内容に

当会は、トルコ、パキスタン、ケニア、ウガンダ、ザンビア、バングラデシュの6ヵ国で難民支援に取り組んでいますが、実感するのは、難民の方々が必要とする支援も、受入地域の事情も千差万別であり、常にケースバイケースの対応をせまられるということです。例えば、トルコに避難したシリア人は市民権の申請が可能となったため、この申請手続きにかかるサポートが必要ですし、パキスタンでは難民居住地を含め、地方の女子小学校への支援が必要です。ケニアのカクマ難民キャンプでは、中等教育校校舎が圧倒的に足りません。ザンビアでは、元難民に対して、経済的自立を視野に政府から土地が提供される一方、見知らぬ者同士がにわかコミュニティを形成するため、隣人同士が助け合えるような相互扶助メカニズムの形成促進といったサポートが必要になります。バングラデシュでは、難民キャンプの人口密度が極めて高く、井戸やトイレの設置が急務で、せまり来るサイクロンの影響も心配されています。6月4日に発表された第三案をみると、変化する支援ニーズに柔軟かつ迅速に対応できるような、使途が限定されない複数年の助成金供与について言及があり、「現場の事情」を汲み取った内容となっていることに勇気付けられます。

また、民族も言葉も異なる難民同士、あるいは受入地域の子どもたちと難民の子どもたちが互いを知る場として、ウガンダ難民居住地でのサッカー大会の開催を助成団体に提案した1年半前、その審査委員会では「サッカーで難民支援ってどういうことですか?」と何度も聞かれ、説明を重ねてようやく納得いただけたものでした。今回の草案には、スポーツや文化イベントが社会開発や社会の団結、難民の若者や子どもたちのよりよい生活のために重要な役割を果たすことが明記されています。これによって今後の審査委員会では、同様の活動がより認められやすくなることが予想されます。実際に、サッカー大会に参加した子どもたちに対して行ったアンケートでは「他の民族や国籍のクラスメートへの印象が良くなった」「『難民』といった属性でなく、個々の名前で呼び合える仲間になった」といった声が上がっています。

ウガンダのビディビディ難民居住地でのサッカー大会

ウガンダの難民居住地で開いたサッカー大会では、国籍も民族も違う子どもたちが同じチームで戦い、絆が生まれました(2017年3月19日)

勝利に喜ぶ選手たち

勝利したチームの喜びの表情。地元のウガンダ人参加者からは、「以前は『難民』としてしか見てなかったけれど、今は友達」という声も(2017年3月19日)

難民問題は世界共通の課題

難民グローバル・コンパクト第三案の17~19項をみると、閣僚級会合として「グローバル難民フォーラム」を定期的に開催するとあり、環境問題のような「地球規模課題」として難民問題に取り組んでいこうとする姿勢が読み取れます。第一回目は来年、第二回目は、1951年の難民条約から70周年にあたる2021年、その後は4年毎の開催が提案されています。難民をめぐる報道では、政治的、経済的、社会的な「問題」がクローズアップされがちですが、難民問題は、「世界共通の人道上の課題」であり、各国が個々の利害を超えて話し合うことで解決の糸口がつかめてくること、そして、そのための枠組みが急務であることを会議場ではひしひしと感じました。また、難民問題のように、各国の利害が交錯し、ともすれば政治的になりがちな課題について、人道を掲げ、中立の立場で各国と調整しつつ公式協議に持ち込むような、調整者としての役割を担える国連という存在の貴重さを改めて実感しました。

7月初旬の最後の公式協議に向けて

難民の方々にとっての第一選択枝はもちろん、 故郷に戻ることですが。その故郷で迫害を受ける恐れがあったり、そのことに当人が恐怖を抱いている場合、または、戦闘や空爆が続くなど、戻りたくても戻れない場合には、避難先で留まる、あるいは第三国へ移住する、といった選択枝が必要です。彼らを受け入れる国や地域にとっても、難民が早く「難民でなくなる」こと、つまり「保護の対象」や「助けるべき人」でなく、地域を支え、経済を支え、税金も納める自立した「社会の一員」となるほうが負担は減るはずです。トルコで市民権を取得したシリア人は既に5万人を超えました。彼らにとって、「難民」は過去の経験となったでしょうか。

各国代表を迎えて行われる難民グローバル・コンパクト公式協議は、7月初旬に最終回が開催される予定で、AARからも再び職員をオブザーバーとして派遣することにしています。難民当事者の方々、「かつて難民であった」方々、日本や世界各地で難民支援に携わる方々、そして、難民問題に心を寄せてくださり、力になりたいと思っておられるみなさまとともにその行方を見守りたいと思います。

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

支援事業部長・理事 名取 郁子

英国の大学院で開発学を専攻。2006年7月より2007年10月までAARアンゴラ事務所駐在。2008年1月から2010年4月まで南スーダン駐在。2010年4月より東京事務局勤務で、現在は支援事業部長兼理事。滋賀県出身

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