駐在員・事務局員日記

小さな島国、バヌアツの驚くべき防災対策

2015年09月01日  バヌアツ
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執筆者

東京事務局
角谷 亮

大学卒業後、在外公館派遣員として2年半勤務。2007年9月にAARに入職し、タジキスタン、南スーダン、ハイチ、トルコでの駐在を経て、現在は東京事務局でバヌアツ事業などを担当。兵庫県出身

記事掲載時のプロフィールです

2015年3月13日、南太平洋のバヌアツ共和国を、大型サイクロン「パム」が直撃しました。バヌアツは、大小83の島々からなる国で、あわせて新潟県ほどの面積に約25万人が暮らしています。サイクロンが直撃した日、同国のロンズデール大統領は、奇しくも、仙台で開催されている第3回国連防災世界会議に出席中で、会議場で、国際支援を訴えかけました。
サイクロン「パム」の勢力は、ハリケーンの強度を計るために使用されるサファー・シンプソン・スケールで最も高い、カテゴリー5に当たるものでした。これは、2013年にフィリピン共和国を直撃し、死者6,200人以上を出したハリケーン「ハイエン」と同じカテゴリーに当たります。
被災者数は、全人口の6割を超える16.6万人。亡くなった方は11人でした(UNOCHA(国連人道問題調整事務所)、3月22日)。サイクロンの規模やこれまでの他国の被害を考えると、犠牲者数は非常に少なかったと言えます。小さな島国であるバヌアツで、どのような防災対策がとられていたのか。バヌアツ事業担当の角谷亮がお伝えします。

1. 伝統的な家づくり

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伝統的なバヌアツの家。住民たちが家の再建をしていました(2015年3月23日、エファテ島・ロワナトン村)

国の半数以上の建物が、一部損壊、もしくは全壊したと報告されているように(UNOCHA、3月20日)、被害は広範囲に及びました。しかし、村の多くの家は、竹やタコノキという現地の木材でできた小さな家だったため、「壁が潰れてその下敷きになって大けが」、ということはほとんどなかったようです。

また、素材が、自分たちの村で手に入るもののため、サイクロン後の再建活動も迅速でした。藁葺の簡素な家であれば、村人が朝からつくり始めれば、その日のうちに完成してしまいます。私が訪問したエファテ島のエトン村でも、損傷した家の木材を家の支柱から外して、使える木材を使って、ほんの1メートル横で新しい家を建て直している家族がいました。こうしたバヌアツの家づくりを地元新聞では、毎年のサイクロンに備えた「伝統の知恵」として紹介していました。

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AARの物資配付は、コンクリート造りの学校前で実施しました(2015年4月1日、エファテ島・エトン村)

一方、村であっても、学校や病院、一部の家は、コンクリート造りです。そうした頑丈な建物は、サイクロン後の避難所として利用されていました。実際、AARが緊急物資を配付した際、配付場所として選んだところは、村の中心にあり、物資保管にも適している、そうしたコンクリートの校舎でした。

2. 携帯電話やラジオを駆使した情報伝達

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「携帯電話のSMSで、サイクロンの最新の情報を受け取れました」と話す島の方々。後列左から3人目が筆者(2015年5月21日、エピ島)

伝統の知恵もさることながら、テクノロジーの力も大きく役に立ったようです。バヌアツ緊急支援時に、サイクロンの接近をどのように知ったのかを現地の方々に質問したところ、皆口を揃えて、「ラジオのメッセージ」、「携帯電話の緊急通知」という回答でした。 バヌアツでは、首都ポートビラがあるエファテ島でも、町の中心から数十分も車を走らせれば電線がなくなり、テレビもありません。そんな中、住民の貴重な情報源は、ラジオ、そして携帯電話です。 私が訪問したエピ島は、エファテ島から約110キロ北に位置する島ですが、そこの離島でも携帯電話の電波は届いており、実際、サイクロンが直撃する数日前から、島の住民は、随時、サイクロンの進路の情報を携帯電話のSMSで受け取っていたそうです。

3. 災害時の対応を担う人材の育成

バヌアツの観光名所として、海と「火山」と聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。バヌアツは活火山が多く、サイクロンに加えて、火山の噴火や地震といった自然災害が多い国です。 実際、今年6月にはマグニチュード5.1の地震が、そして2012年にはマグニチュード7.1の地震が2回、バヌアツで発生しています。 そのような中、90年代から、バヌアツ政府や援助機関が協力して各島や村々に災害対応委員会(Disaster Management Committee)を組織し、その委員会のメンバーに防災や災害時の対応について、定期的に講習会を開催していました。そして、この度のサイクロン「パム」についても、この委員会メンバーが情報伝達の一翼を担ったということです。

包括的な防災対策

犠牲者11人というのは、決して少なくはありません。しかし、サイクロンの強度と、バヌアツの国力を考えると、今回の犠牲者数は最小限に抑えられたと言えると思います。 それを可能にしたのが、バヌアツの伝統的な家造りであり、携帯電話のSMSというテクノロジーの力であり、そして、災害への心構えをもった人々の存在でした。どれか1つが欠けていても被害は増大していたでしょう。

翻って、日本の防災は、どうでしょうか。

今から、日本国民の大半が竹の家に住み始めることは考えにくいです。その分、地震で言えば、耐震性の建物などの高技術で被害を最小限に食いとどめることが期待されています。そして、緊急速報メールもより早く、より正確に情報伝達できるように関係機関が開発を続けています。 ただし、その技術を受け取り、活用するのは、我々個々人です。バヌアツのサイクロン支援は、防災に対する"人"の重要性を、改めて考えさせられる機会となりました。

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