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トルコ:難民が直面する、肥満による貧困サイクルを断ち切る

2019年03月05日  シリア難民支援トルコ
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シリア危機勃発から間もなく8年を迎えます。現在、トルコには360万人以上のシリア難民がおり(トルコ内務省)、その多くが少ない収入で生活しています。貧困からくる肥満の問題、それを改善するトルコでの新しい取り組みについて、駐在員の吉川剛史が報告します。

研修を受けている女性たち 数十名が並び、前方のスクリーンを見ながら笑顔で話している

栄養の基礎知識や、生活習慣病に関する研修を受けるシリア難民とトルコ人(2018年12月、撮影場所はすべてトルコ・シャンルウルファ)

難民と貧困、肥満の関係性

多くのシリア難民は、栄養が偏った食生活をしています。2016年のトルコ保健省やWHOなどの調査によると、成人女性の36%が肥満とされています。日本の成人女性の21%と比較すると、1.5倍以上です。
一見すると、「難民」と「栄養の偏りや肥満」は、関係ないように思えるかもしれません。むしろ、肥満になるほど食べているのだから、難民に支援が充分行き届いていると感じるかもしれませんが、肥満の問題は難民が直面している貧困と密接に関係しているのです。

まず、トルコに暮らす難民の多くは、収入が不安定です。仕事があっても低収入のことが多く、安価な炭水化物を中心に摂りがちです。また、トルコやシリアでは伝統的に肉や油、砂糖を大量に使用する料理やお菓子が食べられていることも、肥満になりやすい原因です。
また、トルコ人は学校で日本の家庭科に相当する授業があるため、栄養の基礎について学べますが、シリアにはそうした授業はありません。そのため、栄養バランスよりも、安価で空腹感が満たされやすい糖分や油分、塩分の多い食品を選びがちです。さらに、成人女性は肌や髪の露出を控える文化にあるため、屋外での運動が受け入れられにくかったり、そもそも自由に外出が認められない家庭もあり、肥満が慢性化します。

肥満によって悪化する、貧困サイクル

こうした生活は、糖尿病や高血圧症などの生活習慣病のリスクを高めます。しかし、言語の問題(シリア人はアラビア語、トルコ人はトルコ語が母語)や、非常に混雑するため医者にかかりにくいこと、経済的な問題から食生活を変えられないことなどにより、病状が進行していきます。
その結果、糖尿病による脚の壊死や切断、高血圧による心筋梗塞など、深刻な容態に陥ってしまいます。一家の働き手であればなおさらのこと、家族の一員が罹患すると、収入が減ったり、食費を医療費に充てたりするため、さらに困窮した生活になります。つまり、偏った栄養摂取が貧困に陥るサイクルを悪化させているのです。
こうした問題は難民だけに限らず、難民の受け入れ地域のトルコ人にも当てはまります。特にトルコ南東部は開発から取り残されており、なかには失業率が全国平均の約2倍になる地域もあり、経済的に困窮している住民が多くいます。難民同様に、貧困からくる栄養・健康問題に直面しています。

研修やイベントで、健康的な食生活を身につける

このような状況を改善するため、AARは国際連合食糧機関(Food and Agriculture Organization of the United Nations:FAO)からの助成を受け、1)正しい栄養摂取と生活習慣病に関する研修、2)健康的な食事のノウハウと調理方法を伝えるイベントの実施に取り組み始めました。

会場に調理場を設け、女性のシェフ1名が料理を実践している。AARスタッフ一人とイベントを助成した団体職員一人が実況している

健康的な食事のレシピを実演するイベント。地元で手に入れられやすい安価な食材を使っています(2018年12月)

研修では、バランスのとれた食事の重要性や低コストで済む健康的な食生活、生活習慣病についての正しい知識などを伝えます。これらの研修内容は、医師免許を保有するAARの現地スタッフが作成し、食生活を見直すディスカッションや、自身のBMI(Body Mass Index:肥満指数)を計算するセッション、タブレットを使用した確認クイズなどを設け、参加者が楽しみながら参加できるように工夫を凝らしました。

講師が手にするプラスチックのカップには、カップの3分の1ほどの砂糖が入っている この量が、コーラなどの炭酸飲料に含まれる砂糖

普段口にするコーラなどの飲料に、砂糖がどのくらい含まれているかを説明する講師(左から2番目)。砂糖の多さに、会場では驚きの声が相次ぎました(2018年12月)

男性5名が、模造紙にグループワークの課題を書き上げている

研修は、普段の食生活を把握するグループワークから取り組みます。自分たちが日常的に何をどれくらい食べているか、書き出している様子(2018年9月)

研修にはトルコ南東部のシャンルウルファ市とキリス市に居住するシリア難民と、トルコ人の計240人が参加し、「自分のBMIを計算してみて驚いた」「日常生活でこんなに大量の砂糖を摂取しているとは知らなかった。でも、砂糖のない生活は考えられない。どうしたらより健康的な食生活に変えられるか」などのコメントや質問が寄せられました。
出席者の多くが女性ということもあり、ダイエットに関する質問も多く出ました。日本では、さまざまなダイエット情報がメディアにあふれていますが、参加者の多くはどのような食生活がダイエットに良いのかを知らない状況でした。多くの参加者が「家族みんなが健康でありたい」という意識を持って積極的に研修に参加してくれたようです。

シェフが料理を実践している 頭に設置するマイクをつけて、広い会場に声が響き渡るようになっている

イベントの様子。右からトルコの有名シェフ、エブル・バイバラ・デミル氏、AAR現地スタッフのヤスミーン・ローソン氏、FAO職員の小原啓吾氏(2018年12月)(credit by FAO Sensoy Yilmaz)

イベントでは、彼らが安価に手に入れられる食材で、美味しくて栄養のバランスの取れた食事を調理できる講義と実演をしました。まず、講義の内容を踏まえた簡単なクイズを通して、栄養の基礎を復習します。その上で、トルコでよく知られているシェフのエブル・バイバラ・デミル氏がシリア人とトルコ人の食の好みや栄養、材料の値段などを考慮した調理を実演します。参加者からは「健康的な調理方法について学べてよかった」「このイベントで学んだ知識を周囲の人にも伝えていきたい」というコメントが寄せられました。

司会台を前にして話す吉川

イベントで、開催の目的について話す駐在員の吉川剛史(右から2人目、2018年12月)

会場の様子。大勢の人が椅子に座り、調理の実演を見ている

イベントには、農業省や市の職員など、行政関係者も含め大勢の人が参加しました(2018年12月)

シリア難民とトルコ人の社会的つながりも高めながら

今回の研修やイベントを通して、多くの人々に健康的な食生活の重要性を伝えることができました。さらなる普及と定着を目指し、AARが運営するコミュニティセンターなどのほかの事業活動にも、この取り組みを取り入れていきたい考えています。AARは、2012年にシャンルウルファで同センターを開設しました。長引く避難生活での孤立を防ぐとともに、シリア難民とトルコ人の相互理解の促進を目指し、料理教室やレクリエーションなどを通じて、女性や子どもたちが参加しやすい活動をしています。栄養改善事業を通じて、シリア難民とトルコ人の社会的なつながりを深めるとともに、生活改善につなげてまいります。

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

トルコ事務所 吉川 剛史

大学で途上国開発・平和構築を専攻し、在学中にフィリピンでのボランティア活動、ボスニアのNGOや国内の難民支援NGOでインターンなどを経験。大学卒業後、総合商社で約3年間、食肉の輸入業務と国内販売業務に携わった後AARへ。ウガンダ事務所駐在を経て、トルコ事務所へ。千葉県出身

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