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シリア紛争勃発から9年

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シリアの男の子が難民キャンプでほほ笑んでいる

2011 年3 月に勃発したシリア紛争により、最低でも約38 万人※1 もの人々が犠牲になったといわれています。現在、シリア国内で避難生活を余儀なくされている人々は590 万人※2 を超え、最大の受入国である隣国トルコには登録されているだけで、350 万人※3 を超えるシリア難民が暮らしています。

AAR Japan[難民を助ける会]は2012 年からトルコにおけるシリア難民支援を、2014年からはシリア国内で国内避難民支援を開始し、これまでに約75 万人へ支援を届けてきました。現在AARが行っているシリア難民/国内避難民支援についてトルコ事務所の景平義文がご報告します。

※1 シリア人権監視団(SOHR)※2 国連人道問題調整事務所(OCHA) ※3 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)

トルコ: 困りごとを抱えた人たちを支える

シリア周辺の地図

AARが活動するトルコの地域とその周辺国

トルコでは、これまでに約30万人を支援しました。現在はシリアとの国境に近いシャンルウルファ県、マルディン県とイスタンブールに事務所を置き、政府の支援が行き届かない社会福祉分野をカバーする活動を行っています。トルコに住んでいるシリア難民の98%が難民キャンプではなく、街中で自活しています。

難民キャンプでは、住居や食糧などの支援を受けられるため、人々の生活状況は似通ったものになりますが、自活している難民の生活状況は個々に全く異なります。そのため、個別のニーズに合わせた支援を考え、提供することが必要です。例えば、行政から支援を得るための登録方法が分からず困っている人にはその手続きをサポートし、病院で言葉が通じず困っている人には通訳を派遣する必要があります。しかし、このような人たちはどこかに相談できるということさえ分からないため、行政や支援団体などに情報が寄せられることがなく、私たちは難民の家庭を一軒一軒訪問して、困りごとを抱えた人を見つけていかなければいけません。

アファド君が左端に立っている。右横に兄弟が3人、AARの女性現地スタッフが座っている。

アファドくん(左)(仮名・12 歳)はお母さん、弟2 人、妹と一緒にトルコで暮らしています。肝臓結石で健康状態が悪化し、学校に通うことができませんでした。手術を受けるにも病院が遠く、言葉の壁もあったため、AAR は病院への送迎と通訳を手配しました。手術を受けたアファド君は元気になり、お母さんは「トルコ政府や他団体の援助が得られず希望を失いかけていた。大変感謝している」と話してくれました。

トルコでは多くの支援団体が活動していますが、それぞれの支援団体に得意分野があります。AAR は支援の届きにくい障がいのあるの方々と子どもへの支援に注力しています。障がい者には車いすなどの補助具を提供するとともに、AARスタッフのシリア人理学療法士によるリハビリテーションも提供しています。子どもたちへの支援としては、公立学校へ通えるよう登録のサポートや、児童労働をなくすために家族へのカウンセリングなどを行っています。  

こうした個別の支援以外にも、地域での孤立を防ぐことや、トルコ人との相互理解の促進を目的としたコミュニティセンターを運営し、サークル活動や交流イベントなどを行っています。また、障がい者とその家族の自助グループや、子どもや青少年のグループを作り、彼らが協力し合いながら、主体性を持って、自らの課題解決に取り組むことができるよう支援しています。

女性の先生の周りを5人ほど女の子が大テーブルを囲んで座っている。机の上には絵本とクレヨンがあり、微笑みながら会話をしている

トルコ:コミュニティセンターを運営しています。(2019年2月)

シリア: 今でも国内避難民が生まれています

シリアでは2014年から支援を開始し、これまでに約45万人に支援を届けました。現在は、食糧の配付と地雷・不発弾対策を行っています。現在も続く戦闘により今でも新たな国内避難民が生まれていますが、すでに多くの人たちが避難生活を送っていることから、新たな避難民への支援が不十分となっています。そのため支援を受けられていない避難民の方に食糧を届けています。

難民キャンプで男性が食糧の入った段ボールをキャンプ内の女性に手渡している。女の子がその様子を右横でみている

シリア:支援が不十分な新たな避難民の方々へ食糧を届けています。(2019年9月)

また地雷、クラスター爆弾や砲弾などの不発弾が大量に残されている地域では避難民、地域住民ともに危険にさらされています。そのため、AAR は地雷や不発弾による事故を減らすために、地雷回避教育を行っています。しかしながら、不幸にして事故にあってしまう人は後を絶ちません。加えて医療施設が攻撃の目標とされていることから、事故にあった後に適切な治療を受けることができず、後遺症が残ってしまうケースも多くあります。こうした被害者に対しては、車いすなどの補助具や、理学療法士によるリハビリテーションの提供を行っています。

右足に障がいのある女の子は足に包帯を巻いた状態で男性からリハビリを受けている

サラちゃん(仮名・5 歳)は、路上で遊んでいるときに右足を撃たれて負傷。手術で弾を取り除きましたが、歩行が不自由になってしまいました。ストレッチや歩き方の矯正など8回ものリハビリを重ね、補助具を提供したことで少しずつ回復。学校にも復帰したことで友だちもでき、笑顔を取り戻しています。

活動資金は減少の一途を

戦況から見ると、シリア内戦は終結に向かいつつあります。シリアの首都ダマスカスでは、ロシアや中国の資金による復興の動きが加速し、欧米も民間レベルでは、すでにダマスカスでのビジネスや復興支援を開始しています。シリア政府によると、2018年7月から2019年末までにレバノンから約16万人、ヨルダンから約35万人の難民がシリアに帰還。トルコ政府によると、2019年11月までに37万人の難民がトルコからシリアに帰還しました。一方で、長期化した紛争で国連機関やNGO 団体が支援を行うための資金も減少しているため、支援規模の縮小や撤退の時期を検討する団体も増えています

支援に頼らず地域で支え合う

「内戦が終結に向かっている」といっても、日々の生活に困難を抱え、一日一日を生き抜いていかなければならない人々にとっては遠い話であり、多くの人が今もそしてこれからも支援を必要としています。難民受け入れ国の方針変更や資金の減少などの理由からAARが支援を続けられなくなるときはいつか訪れます。そのときに、シリア難民の方々が支援に頼らず、地域で支え合って生きていけるようにできる限りのサポートを続けます。

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

トルコ事務所 景平 義文

大学院で教育開発を専攻した後、ケニアで活動するNGOに就職。約3年間現地で学校建設支援などに携わった後、緊急・復興支援に携わろうと2012年11月にAARへ。東京事務局でシリア難民支援を担当した後、2017年8月より現職。大阪府出身

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