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トルコ:シリア難民の栄養状態を改善

2020年03月06日  シリア難民支援トルコ
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エプロンを付けた講師たちが机にコンロと鍋を置き、料理を実演。参加者たちはそれを見ている

専門家を招き、栄養や食材の価格を考慮した料理の作り方を学ぶイベントを開催(2019年9月、以下写真はすべて9月撮影)

トルコは世界最大の難民受け入れ国であり、2020年1月末時点で約358万人のシリア難民を一時的な保護下に置いています。トルコの最大都市イスタンブールを除くと、これらの難民はトルコ南東部のシリア国境付近に多く居住しています。
適切な栄養を摂り、健康を維持することは国際的に認められた基本的人権の一部であり、シリア難民の方々も例外ではありません。しかし、経済的・社会的に厳しい状況に立たされているシリア難民は、パンやファストフードなど安価で栄養の乏しい食事に偏りがちです。また、難民の受け入れ地域に居住するトルコ人住民も同様です。こうした状況にあって、健康的な食生活に関する知識やスキルを身に付け、それらの方々が少しでも栄養バランスのとれた食生活を送れるようサポートする必要があります。AARトルコ事務所の事業に従事し、栄養士でもあるオヤ・ネヴァ・ブンギュルが取り組みを報告します。

健康的な食生活を伝える

AAR Japan[難民を助ける会]は「健康的な食生活と栄養における知識と実践の向上」プロジェクトを国連食糧農業機関(FAO)と共に実施しています。AARはトルコ南東部のシャンルウルファ県とマルディン県に居住する75人のシリア難民とトルコ人住民に対して、2019年9月18日と25日に研修を実施しました。具体的には、健康的な食生活の重要性、そのための食材の買い方、生活習慣病の原因、妊娠した女性および子どもに焦点を当てた栄養などについて学びます
また2020年1月には、先の研修内容をまとめたハンドブックを配付して内容を復習しながら、トルコの著名な料理人であるエブル・バイバラ・デミル氏を招き、安価で栄養豊富な食事の作り方を学ぶための料理イベントを開催しました。さらに、このプロジェクトの効果を測るために、研修および料理イベントの実施前後にアンケート調査を行い、参加者の行動がどのように変容したか調査しました。

調査結果によると、研修とイベントの両方に出席した参加者のうち、シャンルウルファでは48.2%、マルディンでは42.9%の参加者が炭水化物、砂糖、食塩、油の全部、もしくはいずれかの摂取量を減らすことができました。この結果は、AARのプロジェクトによって人々に健康的な生活を送ることができたというだけでなく、長年継続されてきた食習慣であっても、研修を行うことでより良い方向に変えていけることを示しています。食生活を変えることは、文化や伝統などの社会的な要素、心理的な要素とも関連しており、家族の理解が必要です。AARの事業は、そうした面にも効果的に働き掛けることができたといえます。

栄養に関する知識が不足

シリア難民や受け入れ地域のトルコ人住民の多くは、塩分や糖分、油脂などの適切な摂取量、過剰に摂取した場合のリスクについて正しい知識を持っていません。シリアでは日本でいえば家庭科のような授業がなく、そうした知識を学ぶ機会がないのです。研修の中で、参加者のBMI(Body Mass Index:肥満指数)と腹囲を計測したところ、大半の人が世界保健機関(WHO)の定める「危険数値」に達していました。参加者自身もそのような結果を予想しておらず、驚きの声が上がっていました。実際に、トルコ保険省やWHOなどの調査(2016年)によると、シリア難民成人女性の36%が肥満とされています

メジャーを使い1人の女性の腹囲を2人がかりで計測している

研修で行った腹囲の計測

また、妊娠、出産、授乳、子どもの栄養についての知識も十分とは言えません。例えば、妊娠に関しては、妊娠の周期が近すぎるにも関わらず、身体の適切なケアの方法を知らないようです。この妊娠の周期の短さについて、参加者に質問すると、多産は文化上好ましいものであり、「一人ひとりに十分なケアができなかったとしても、子どもを多く持ちたい」という回答がありました。トルコ南東部およびシリア北部の文化では、子どもが多いことは家族に力があることを示すので、妊娠の間隔を空けることなく、可能な限り多くの子どもを持とうとするのです。

しかし、妊娠した母体にどのような栄養が必要なのか、参加者の理解が足りていないようでした。よく言われているのは「妊娠してるんだから、2人分食べなきゃだめなのよ!」というフレーズです。赤ちゃんに十分な栄養を届けるためには、普段よりもたくさん食べよう、という考えです。しかし、単純に2倍の量を食べようとすると、母体の消化器官などに負担がかかるだけでなく、カロリーを過剰摂取することになります。

30名以上の参加者が椅子にすわり、興味津々に講義を受けている

講義に聞き入る研修参加者の皆さん

赤ちゃんや子どもの栄養に関する理解も不足しており、例えば子どもが3歳から5歳になっても牛乳を与えるだけで十分であり、食事をする必要がないと信じている参加者もいました。チョコレート、ビスケット、クラッカー、ポテトチップスなどのお菓子も、子どもが求めるがまま与えている方もいました。また、地域の習慣として、出産後3日間以内に新生児にハーブの混合物を与え、免疫システムと消化システムを整えると話す方もいましたが、これは非常に危険なことです。保護者自身が、自分たちの知識が間違っている、あるいは科学的根拠がないということを知りません。

食生活改善の3つの障がい

シリア難民およびトルコ人住民の食生活を改善する上で、大きく3つの障がいがあると言えます。最も大きな課題は経済状況です。難民として生活しているシリア難民に加え、今回プロジェクトを実施したシャンルウルファ県およびマルディン県に暮らすトルコ人も、経済的に豊かとは言えず、失業率も高い状況にあります。

その一方で、文化的に多産が好まれるために、家族の人数は多くなりがちです。特に教育を十分に受けることができない貧困層は、農業や建設業を中心とした肉体労働に従事することが多く、栄養バランスを考えるよりも、安く高カロリーでお腹を満たせる砂糖、油、炭水化物を中心とした食べ物が食卓に並びがちです。経済的に苦しいため、健康的で質の高い食べ物を十分に購入する余裕がないという側面もあります。例えば、AARは砂糖を使用しないデザートレシピなどを提案すべく、料理イベントの参加者を招待してワークショップを実施しましたが、参加者からはバナナやドライフルーツなど一見すると高価に思えない材料でさえ、家族の人数を考えると高価で購入できず、「実際に自宅で作るのは難しい」とのコメントがありました。

講師がスクリーンの前に立って参加者に向かい話している

講師が栄養や健康的な食生活を送るための知識などを伝えました

また、別の課題として伝統と文化が挙げられます。トルコ南東部やシリア北部で昔から食べられている食事の多くには、塩、油、砂糖が大量に含まれています。こうした食生活で育ってきた方々にとって、それらの摂取は習慣になっているのです。これは日本人が海外の食べ物や菓子が辛すぎたり甘すぎたりして食べにくいというのと同じかも知れません。例えばシリア難民の方々はティーポットに大量の砂糖を入れてからお茶を入れますが、これが彼らの伝統的なやり方なのです。プロジェクトの参加者の一部は「砂糖を減らしたお茶を飲むくらいなら、そもそもお茶を飲まないほうがましだ」と話していました。

第三に、健康状態のチェックが一般的ではないというのも課題の一つです。シリア難民やトルコ人の多くは体重、腹囲、血圧を測ったことも、血液検査をしたこともありません。生活習慣病に関する知識も普及しておらず、彼らは自分たちが健康であり、生活習慣を変える必要などないと思い込んでいるのです。研修を始めた当初に散見されたのは、病人でなければ栄養に気を使う必要はないという考え方でした。また、肥満、高血圧、糖尿病と診断された人に食生活に気を付けているか尋ねたところ「食事には十分気を付けており、病状を悪化させるようなものは食べていない」との回答でしたが、それまでは塩分、油、糖分を大量に含む食生活が病状の悪化につながるという正しい知識を持っていなかったようです。

参加者の要望を聞いて改善を

AARのプロジェクトは食生活の改善につながっていますが、研修にも料理イベントにもまだまだ改善の余地があります。例えば、参加者の感想からは一日で集中的に行う研修よりも、複数回に分けて連続して行うものがよいという感想が聞かれました。これまで学校に通ったことのないような方々は「4時間から5時間のトレーニングだけで内容をしっかり理解するのは難しい」と率直にコメントしていました。また、自宅に体重計がないので、体重の変化を確認することができず、「定期講座のたびに体重を定期的に記録できれば、よりモチベーションの維持につながる」とのコメントもありました。今後同様のプロジェクトを実施する場合は、ある程度の期間をかけて研修を定期的に実施する必要がありそうです。

約25名ほどの参加者と記念撮影。AARトルコ事務所の吉川剛史も微笑んでいる

研修に参加した皆さんと集合写真。前列左はAARトルコ事務所の吉川剛史

課題はあるものの、大半の参加者は栄養と健康的な食生活を送るために必要な知識を得られたことに満足したようです。料理イベントの際に、ある参加者が「スパイスを使って塩の量を減らすことができた」と嬉しそうに報告してきてくれました。個人的には、このプロジェクトに栄養士として関わり、短い期間ながら参加者の食生活を一部でも改善できたことを嬉しく思っています。この貴重な経験を踏まえて、今後より効果的なプロジェクトを企画したいと考えます。

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

 オヤ・ネヴァ・ブンギュル

1991年生まれ。栄養学にて学士号および修士号を取得。ラジオで栄養に関する番組を持ち、子ども向けに栄養の重要性を説明した絵本を作成・出版。アンカラ出身。

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