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すべての子どもたちのために ~インクルーシブ教育の現場から~

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「インクルーシブ教育」は耳慣れない言葉かもしれません。インクルーシブ教育とは、障がいの有無、人種や言語の違いなどに関わらず、すべての子どもが、暮らしている地域で、一人ひとりの「個性」、つまり能力やニーズに合わせて受けられる教育のことを言います。また、すべての子どもたちが「個性」にあわせ、別々にではなく一緒に学ぶことを目指しています。特に開発途上国では、障がい児の初等教育の就学率や修了率が、障がいのない子どもと比べて明らかに低いのが実態です。基礎教育を受けられなければ就職もできず、貧困から抜け出す機会が奪われます。このためAARでは、障がいのある子どもに焦点を当てて、現在3ヵ国でインクルーシブ教育を推進しています。

ハイチ~ゼロからの出発~

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啓発活動のようす。今では地域住民がボランティアでこのような活動を手助けしてくれるようになりました(2015年5月1日)

ハイチでは、「障がいは前世の悪行の結果だ」といった偏見や、犯罪の被害を受けやすいなどの理由から、障がい児の就学率は1.7%と非常に低いのが現状です。昨年3月から首都ポルトープランスでも特に貧しいカルフール地区で始めた事業はまず、障がい児がどこにいるのか、一軒一軒家庭訪問をして調査することから始まりました。そして何より、障がい児が学校に通えるようになるためには、周囲の人たちが障がいについての理解を深めることが重要です。このため、例えば地域の人に、目が見えないということがどういうことなのか、目隠しをして体験してもらうなどの啓発活動を行いました(右写真)。参加者からは「目の見えない人がこんなに怖くて不自由な生活をしていると思わなかった」との声が聞かれました。また、先生を対象に障がいのある子どもへの教え方などの研修を実施しました。

こうした地道な活動の結果、これまでに3名の障がい児を就学に繋げることができました。軽度の知的障がいを持つマーベンスくん(6歳・下写真)もその一人。最初は授業について行けず、クラスメートにも馴染めずに授業中歩き回ったりしていました。しかし、先生が忍耐強く指導し、AAR職員が頻繁に学校を訪問するうちに少しずつ心を開き、授業中も落ち着いて熱心に先生の話を聞くようになりました。以前とは違う、マーベンスくんの生き生きとした表情や友だちと楽しそうに学校生活を過ごす姿を見て、この活動の意義を感じています。また地域住民も、ボランティアで啓発活動を買ってでるなど、良い変化が起きています。少しでも障がい児教育に理解を示す人が増えるよう、私たちは日々活動しています。(ハイチ事務所 池上 亜沙子)

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実の両親がおらず、近所に住んでいた女性に育てられているマーベンスくん。これまで学校に行ったことはありませんでした。しかし、「立派な大人に育ってほしい」という育ての親の女性の願いが、今回の就学に繋がりました(2015年12月3日)

カンボジア~障がいのない子どもにもプラスの変化~

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眼鏡をかけ始めたころはめまいがしたというケム・チー・レアングくん。今ではすっかり慣れました(2015年11月19日)

カンボジアでは2013年から、プノンペンのカンダール州クサイ・カンダール郡で、校舎のバリアフリー化や教員の研修、地域住民の啓発活動などを行ってき ました。また、子どもたちをそれぞれの障がいに合った専門の病院などに連れて行き、必要に応じて眼鏡や補聴器などを提供してきました。その結果、教員から は以前よりも子どもたちが学習に積極的に取り組むようになったという変化が伝えられてきています。例えばケム・チー・レアングくん(9歳・左写真中央) は視覚に障がいがあったため、AARの支援で眼鏡を作りました。今では教室で一番前に座り、以前はよく見えなかった黒板や教科書の字がよく見えるようにな りました。これまで以上に好きな勉強に集中して取り組んでいて、クラスのなかでも良い成績を収めています。

昨年3月からは対象校と地域を拡大して活動を継続しています。これまでの経験から、教員や地域住民だけでなく、ともに学ぶクラスの子どもたちの理解が重要なことを実感したため、学校で半日の啓発ワークショップを実施しました。子どもたちには車いすなどを利用して障がいを体験してもらい(下写真)、クイズやロールプレイを通して、誰もが学べる"インクルーシブ"な学校にするために何ができるか考えてもらいました。子どもたちからは、移動や読み書きで困っている子がいたら手助けをする、差別になり得る不適切な言葉を使わないよう他の生徒にも伝えるなど、さまざまな意見が出されました。ワークショップはすべての子どもが学ぶ権利を持っていること、それを実現するためには自分自身の行動が重要であることを学ぶきっかけとなったようです。
(カンボジア事務所 向井 郷美)

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年1回、各校で啓発ワークショップを行っています(2015年7月17日)

タジキスタン~「ここはみんな一緒の場所だから」~

タジキスタンでは、障がいのある子どもは障がい児のみを対象とした寄宿学校に通うことが一般的でした。しかし、親元を離れずに地元の学校で、障がいのある子もない子もみんなで一緒に学んでほしい、という保護者の熱意に支えられ、AARは2014年から首都ドゥシャンベ市の公立学校でインクルーシブ教育事業を始めました。これまで4校で、支援学級の整備、スロープや手すりの設置、トイレの改修、教員研修などを行い、現在それぞれの学校で、10名から25名の自閉症児や身体障がい、知的障がいがある子どもたちが学んでいます。そのうちの1校では今、障がいのない生徒が空いている時間を使って、障がいのある子の勉強を見てあげている光景が見られます(下写真)。

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支援学級に興味を持った生徒が自然と支援学級に足を運ぶようになり、あいている時間を使って障がいがある子どもたちの勉強を見てあげたり、支援学級でのイベントを生徒たち自ら計画してくれるようになりました(2015年12月9日)

校長は当初、インクルーシブ教育を始めることが不安で、学校が周囲からどう見られるかをとても気にしていました。しかしある日、学校行事で歌を披露してい る生徒の回りを障がい児がぐるぐると回り始めたときのこと。邪魔になることを心配した母親が止めようとすると、校長が一言。「止めなくていいんだよ。ここ はみんな一緒の場所なんだから」。目には見えないけれど、確かな変化、成果を感じた瞬間でした。市内には140ほどの公立・私立学校が存在しますが、今後 はこの4校を拠点とし、ほかの学校でもより多くの障がい児を受け入れてもらえるよう、尽力していきたいと思います。(タジキスタン事務所 荒木 梢)

インクルーシブ教育は、一朝一夕に成果が出るものではありません。その成果を数値で測ることも困難です。しかし、それぞれの地で活動する駐在員は、児童や先生の変化を、しっかりと、はっきりと感じ始めています。AARはインクルーシブ教育が多様性を認め、活かし合う社会の実現に貢献すると考え、これからも活動を続けていきます。

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

池上亜沙子

ハイチ事務所 池上 亜沙子

2013年8月よりハイチ駐在。中学時代に北朝鮮と韓国の国境付近を訪問し国際問題に関心を持つ。大学では教育心理学を専攻し、フィリピンでの教育支援活動に携わる。民間企業勤務後、英国の大学院で教育政策と国際開発の研究を経てAARへ。「障がいや貧困などを理由に教育を受けられない子どもたちが希望を持てるよう支援したい」。宮城県出身

向井郷美

カンボジア事務所 向井 郷美

2013年11月より東京事務局で主にカンボジア事業を担当し2015年3月よりカンボジア駐在。日本の中学校や中国の高校で教師として働く中で、教育を受けたくても受けられない子どもの問題に関心を持ち、大学院で国際協力について学ぶ。「支援を必要とする子どもたちと支援してくださる日本の方々の気持ちをつなげたい」。青森県出身

荒木梢

タジキスタン事務所 荒木 梢

2013年11月よりタジキスタン駐在。大学卒業後、NGOやエジプト大使館勤務、米国への大学院留学を経て「困難な状況にある方々に直接支援を届ける仕事がしたい」とAARへ。「公的な支援なしで自主的に活動している障がい児のお母さんたちを応援したい」。神奈川県生まれ

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