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タジキスタン:ヒッサール市でのインクルーシブ教育事業(第3期)がスタート

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タジキスタンでは、「障がい児は寄宿制の特別支援学校で教育を受けるべき」という旧来の考え方が根強く残っています。また、障がいに対する差別や偏見もあり、障がい児の多くは、家に閉じこもり、特別支援学校にさえ通うことができていませんでした。

そこで、AAR Japan[難民を助ける会]タジキスタン事務所では、2014年より障がい児の就学環境の改善を目指したインクルーシブ教育(※)事業を行っています。障がい児を含む、さまざまな子どもたちに対応できる学校づくりを進めています。最初の3年間は首都のドゥシャンベで、2017年からは首都から西へ25km離れたヒッサール市でこの活動を進めてきました。同市は、近隣に比べて障がい児が多いといわれています。
(※)インクルーシブ教育(包括的な教育)・・・障がいの有無や人種、言語の違いなどに関わらず、すべての子どもたちに開かれた教室、学習施設、教育制度

研修に集まった教師が教室に10人以上がいる。机の上には文字が書かれた模造紙が置かれて、講師の女性がその用紙を見ている

教員研修のグループワーク

2019年8月から始まったヒッサール市での3年目の事業では、3つの学校を拠点校とし、4つの活動(1、バリアフリー建設、2、人材育成、3、啓発活動、4、保護者ネットワークの強化)を柱に行います。今回は、この中でもすでに動き始めた2つの活動について紹介します。

バリアフリー建設

まず、バリアフリー建設について紹介します。建物の段差は、特に車いすや松葉づえを使っている子どもたちにとっては一苦労。就学を妨げる大きな要因になります。そこで、バリアフリー環境を整える建設作業が2019年9月から始まりました。

閑散とした室内には、壁はまだ真っ白で工事中。建設会社の男性が鉄の作業台に立ち壁に向かっている

少しでも早く子どもたちに教室で学んでもらいたいと、建設会社のみなさんが予定よりも前倒しで完成させてくれました(2019年9月5日)

スロープや手すり、車いすでも使えるバリアフリートイレの建設が進んでいます。このほかに、「学習支援室」の建設を進め、11月に完成しました。学習支援室では、インクルーシブ教育や障がい児への学習指導などに関する研修を受けた教員やソーシャルワーカーが、障がい児一人ひとりに合わせた学習をサポートします。また、体の運動機能の強化やリハビリが必要な子どもたちのために、教室の横にはランニングマシーンやサイクリングマシーンなどを置くスペースを設けました。

床にはやわらかいマットが敷かれ、その上には、大きなバランスボールや木の枠に入ったボールプール、ランニングマシーンなどが設置

バランスボールやトランポリンなども設置 (2019年11月12日)

学習支援室が完成すると、障がいのために今まで学校に通えていなかったり、途中で就学を諦めてしまったりした子どもと保護者が続々と来校しました。支援室のオープン初日には、通常学級の子どもたちもたくさん遊びにきました。多様な生徒たちが、よりよく学べるような学習環境づくりを目指しています。

教室の中には、明るい光が差し込んでいる。生徒や保護者が椅子に座り、黒板の前に立つ講師の話を聞いている

学習支援室が無事に完成。明るい光が教室に入り、新しい机やいす、黒板などがそろい、授業がスタート。初日には学習支援室について先生から説明があり、保護者も熱心に耳を傾けていました(2019年11月12日)

インクルーシブ教育に携わる人材の育成

次に、教員研修についてご紹介します。教室やスロープなどの物理的環境が整ったからといって、障がい児を含めた誰もが質の高い教育を受けられるわけではありません。実際に子ども一人ひとりの個性を活かした授業ができる教員を育てていくことが必要です。2019年8月には、教員を対象にした3日間の研修を3つの拠点校それぞれで行いました。

拠点校の教員はもちろん、周辺の学校からも参加者を募り、合計96名の教員がこの研修を修了しました。研修では、インクルーシブ教育とは何か、公平とは何かといった概論から、自閉症やダウン症といった障がいの特性や、障がい児に教える上での効果的な教授法などについて、幅広い内容が取り上げられました。

教室の中には、教師が椅子に座って前を見ている。前方には説明する講師がいる

障がいがある子どもの保護者の中には、子どもが勉強することに意味を見出せず、通学に否定的な方もいます。そのような場合にどのように対応するか、親役、教員役、校長役を演じながらみんなで考えました(2019年8月27日)

最初はインクルーシブ教育について何も知らなかった参加者も、写真や映像をふんだんに取り入れた講義やロールプレイ(役割演技)、グループワークを通して、たくさんの学びがあったようです。

研修を受けた参加者に、AAR大澤(筆者)が証書を手渡している

教員研修の受講後で証書を授与され喜ぶ参加者。中央は筆者

「実は自分の親族に障がい児がいる」「自分のクラスの子にも障がい児がいる」と、だんだんと自分の経験や状況についても、自然と参加者同士で話すようになりました。

参加者や講師、スタッフを合わせて50名ほどで集合写真。参加者は証書を両手で掲げている

教員研修に参加した皆さんと集合写真

医療従事者向けのインクルーシブ教育セミナー

2019年9月と10月には、医師や看護師など医療に携わる人へのセミナーを行いました。なぜ教育事業のために、学校関係者ではなく医療従事者へ向けたセミナーをするのでしょうか?タジキスタンでは障がい児が学校へ入るためには、医療機関からの診断証明書が必要です。障がい児の就学に際して、医療関係者のサポートは不可欠なのです。適切な診断とスムーズな証明書の発行が、就学時期を大きく左右します。

室内にはコの字型で机が配置され、セミナーの受講生が座っている。前に立ちAAR大澤(筆者)が挨拶している

セミナーの開始時に挨拶をする筆者(2019年9月30日)

また、就学に不安を抱える障がい児の保護者に対して、医療従事者が適切なアドバイスをして就学を促すことで、より多くの障がい児が学習の機会に恵まれることが期待されます。

室内には15人ほどの研修を受けに来た医療従事者が椅子に座り、前で説明する講師の話を聞いている

講師の話を真剣な表情で聞く医療従事者(2019年9月30日)

この研修では、障がいは「前世の罰」と言われているが個人の過ちではないこと、どんな子どもでも教育を受ける権利があることに加えて、かつての拠点校で障がい児の学習能力や生活スキルがどのように高まったか、といった実例が紹介されました。学校と医療機関とが連携して障がい児の就学を促進していくためにはまだ時間がかかりますが、今回のセミナーはその第1歩となりました。

AARの現地スタッフが、研修の参加者の前で説明している。参加者は立っていたり椅子に座っており、20人ほどが教室内にいる

学習支援室を見学する医療従事者と、この学校での取り組みを説明するAARスタッフ(右から2番目)(2019年9月30日)

誰もがよりよく学べる学校づくりへ

ヒッサール市で3年目になる本事業では、地域全体にインクルーシブ教育の考え方を広め、誰もがよりよく学べる学校づくりを目指しています。今後もより一層、拠点校や地域の人々、行政機関と協力しながら活動を進めていきます。 今回は活動の4つの柱のうち、バリアフリー建設と人材育成の2つを紹介しましたが、次は、啓発活動や保護者ネットワークを強化するための活動について報告したいと思います。

署名式では、日本大使館の職員とAAR山根がスーツを着て、握手を交わしている。関係者はイスに座った状態で拍手を送っている

事業開始に伴う署名式。の北岡元在タジキスタン日本国特命全権大使(当時)(右)とAARタジキスタン事務所(当時)の山根利江(左)が握手を交わしました。ヒッサール市の拠点校の校長や市教育長、タジキスタン教育省の担当者たちとともに、さらなるインクルーシブ教育推進に向けて、決意を新たにしました(2019年7月31日)

ヒッサール市の教育長や校長、AARスタッフを含め15人ほどが一列に並び、記念撮影

ヒッサール市拠点校の校長、市教育長、タジキスタン教育省の担当者や北岡元在タジキスタン日本国特命全権大使(当時)との集合写真

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

タジキスタン事務所 大澤由恵(おおさわよしえ)

大学では日本史を専攻し、中国へも留学。日本とタイの大学院では、タイの難民キャンプにおけるミャンマーの少数民族の教育を研究。その後、香港の日本人学校で社会と英語教師として勤務。2019年7月よりタジキスタン駐在。東京都出身。

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