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台風15号:吹き飛んだ屋根、倒壊した農業用ハウス。復旧への道のり

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琵琶の木が強風で倒され、根っこまでが見えている

台風15号によりなぎ倒された枇杷の木(2019年9月7日)

2019年9月7日から8日にかけて、台風 15 号は小笠原近海から伊豆諸島付近を北上し、9月9日には三浦半島付近を通過して東京湾を進み、強い勢力で千葉市付近に上陸しました。台風の接近・通過に伴い、伊豆諸島や関東地方南部を中心に猛烈な風雨となり、千葉県千葉市では、最大風速 35.9 メートル、最大瞬間風速 57.5 メートルを観測。多くの屋根が吹き飛ばされて壊れるなど、甚大な被害がでました(2019年12月5日内閣府発表)。台風15号は広い範囲に被害をもたらしましたが、中でも住宅への被害は千葉県で最も多く発生し、一部損壊が61,104棟、半壊が3,652棟、全壊が314棟にのぼりました。(2019年12月5日消防庁発表)。

また、農業用ハウスが倒壊するなど、農業分野においても大きな被害が発生しました。千葉県の特産品である枇杷も、倒れたり、海からの強い風で塩害に見舞われました。

AARは9月14日から千葉県へ緊急支援チームを派遣し、支援物資の配付と調査を行ってきました。そのなかで特に被害が大きかった3つの福祉施設の復旧支援について、AAR緊急支援チームの櫻井佑樹が報告します。

一刻も早い施設の復旧を

まず、バリアフリー建設について紹介します。建物の段差は、特に車いすや松葉づえを使っている子どもたちにとっては一苦労。就学を妨げる大きな要因になります。そこで、バリアフリー環境を整える建設作業が2019年9月から始まりました。

天井には穴が開き、床にあった畳がはがされ木の板がみえている

聞き取り調査をするAAR緊急支援チームの生田目充(右)と特定非営利活動法人たからばこ理事長の武田由美氏(左)。生田目が立っている場所にあった畳も被害を受け、使えなくなりました(2019年10月31日)

特定非営利活動法人たからばこ(南房総市)では、児童発達支援および放課後等デイサービス事業を行っています。南房総市で唯一、18歳までの発達に特徴のある子どもたちのための施設を運営しています。0歳から就学前の6歳までは、日常生活の自立支援や機能訓練を行ったり、遊びや学びの場を提供しています。7歳から18歳までは、放課後や長期休暇時に過ごしたり、家と学校以外の居場所として、また友だちを作る場として活用されています。

この施設では、屋根瓦が吹き飛んだり窓ガラスが割れるなどの被害があり、大規模な修繕を余儀なくされました。また、続く台風19号、21号等の雨で、事務所の備品も施設の室内も水浸しになり、使えなくなりました。そのためAARは、パソコンの提供と施設の離れ屋の修繕を予定しています。
同施設は、南房総市から一時的な活動施設の提供を受けていますが、2020年3月までが期限となっています。そのため、一刻も早い施設の復旧が望まれています。

ブルーシートが屋根の上にかけられ、シートが飛ばないように上には土嚢が置かれている

施設の屋根が強風で剥がれ落ちたため、ブルーシートで応急対応をしていました(2019年10月31日)

シイタケの原木200本が被害に

障がい者就労施設である特定非営利活動法人生活自立研究会(南房総市)の富浦作業所では、シイタケの原木栽培を行っている農業用ハウスの倒壊と原木200本の被害を受けました。そこでAARでは、同作業所の農業用ハウスの再建とシイタケの原木の提供を行いました。シイタケの栽培・販売は施設に通う利用者にとって、大切な作業であり収入源です。提供した原木に、今年2020年2月には植菌を行い、秋には収穫できる予定です。

ビニールハウスの骨組みが全体的に湾曲し、ビニールがすべて離れている。中には、椎茸の原木が一列に立てかけられている

被災直後の富浦作業所の農業用ハウス。ハウス内にあったしいたけの原木も倒されました。(2019年9月17日)

黒いビニールがハウス全体に新しくかけられている

2019年内に農業用ハウスは復旧。翌年のしいたけ栽培に向けた準備を開始することができました。(2019年12月20日)

農業用ハウスの再建工事を施行するJA安房店には、AARの活動に多大なご理解をいただき、通常であれば今春春以降になるのではと心配されていた着工を調整くださり、2019年内に完成させることができました。

夢のようなプレゼント

障がい者就労施設である特定非営利活動法人一粒舎(木更津市)では、ブルーベリー園を運営しています。ブルーベリー園内にあった、農業用ハウスの中には施設に通う利用者が休憩所として使う小屋がありましたが、雨漏りや浸水による被害で、取り壊しを余儀なくされました。

ビニールハウスの天井部分にあったビニールはなくなり、中からは空が見えている。プレハブのような休憩室だった長方形の白い建物がハウスの中にある

被災直後の休憩所(2019年9月19日)

そのためAARは、休憩所の再建を支援しました。また、安全ピンをゼッケンに取り付けるなどの軽作業を企業から受注しており、その作業台も提供しました。そして、休憩所の奥には相談室を新たに設けました。相談室を新設したことで、施設を利用する方と職員が相談するときのプライバシーを確保する場所ができました。また、ブルーベリーの手入れ中などに体調を崩した方が一時的に休憩ができる場所としても使われます。

新しい作業所の中は、木の床や天井になり、真ん中にはテーブルがおかれ利用者が座っている。明るい日差しが差し込んでいる

再建した休憩所。明るく落ち着いた環境で軽作業等ができるスぺース(手前)と相談室(奥)を設置。以前の休憩所はビニールハウス内にあり、夏は暑く冬は寒い場所で、さらに雨が降ったときは雨音で話し声が聞こえない環境だったそうです(2019年12月20日)

また、一粒舎の代表の飯田 喜代子さまより、AARへ温かいお手紙をいただきました。一部、ご紹介します。
『一粒舎と利用者にとって、夢のようなプレゼントでした。この恩を忘れずに、私たちのできる社会貢献をしていきたいと思っています。これからブルーベリーの施肥や剪定が始まりますが、おいしい実がなるように頑張ります』

約30名の利用者が3列にならんで、カメラに向かい記念撮影。嬉しそうな表情をしている。

特定非営利活動法人一粒舎の利用者の皆さん。再建した休憩所にて(2019年12月3日)

皆さまからのご寄付やご協力で、このような喜んでいただける支援を届けることができました。

まだまだ必要とされる支援

千葉県では、台風15号だけでなく、続く台風19号や大雨の影響により、広範囲で多くの被害が発生しました。4ヵ月が経った今でも、被災地にはブルーシートがかかったままの家屋が多数あり、今でも支援が必要な状況です。
被災された方々を支えていくため、引き続きご支援をどうぞよろしくお願いいたします。

※特定非営利活動法人一粒舎と特定非営利活動法人生活自立研究会への支援は、特定非営利活動法人ジャパン・プラットフォーム(JPF)の助成を受け実施しました

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

東京事務局 櫻井 佑樹

大学卒業後、民間財団に勤務したのちイギリスの大学院で平和学を学ぶ。パキスタンでのNGO勤務を経て2012年8月よりAARへ。東京事務局でタジキスタン事業などを担当し、ザンビア駐在後、2016年8月までタジキスタン駐在。現在は東京事務局で福島事業やストップ・キラーロボット・キャンペーンなどを担当。三児の父(千葉県出身)

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