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対人地雷禁止条約発効20年記念特集「地雷対策とは」その3「地雷回避教育」

2019年05月23日  地雷対策
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1999年3月1日に「対人地雷の使用、貯蔵、生産及び移譲の禁止並びに廃棄に関する条約」が発効してから20年。この機会に、長年地雷問題に関わってきた東京事務局の紺野誠二が、地雷対策全般について解説します。今回は、地雷から身を守るための方法を伝える活動(地雷回避教育)についてです。

「その1」と「その2」についてはこちらをご覧ください。

地雷から身を守るために

ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、コソボ自治州(当時)、ザンビア、アンゴラ、アフガニスタン、スーダン、シリア。これらの国々で、AAR Japan[難民を助ける会]は地雷から身を守る方法を伝える活動(地雷回避教育)を行ってきました。地雷の除去には長い時間がかかるため、地雷のある土地に暮らさざるを得ない人々が、被害に遭わないようにするための活動です。字の読めない人や子どもにもわかりやすいように、ポスターや映画、ラジオなど、その地域の人たちに馴染みやすい方法で伝えます。各地域の文化に配慮した内容にしたり、それぞれの民族の言語に翻訳するなど、その土地の住民が理解できるような教材を作成します。テレビや雑誌がほとんどない地域では、このような教材は人気が高く、大勢の人たちが関心を持ってくれます。

一番大切なこと

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地雷の危険から身を守るための教材(スーダン)。絵で地雷の目印や標識を伝えます

地雷とは、地中や地表に設置され、人や車の接近や接触によって爆発する弾薬類です。地雷から身を守るために必要なメッセージは主に8つです。

    1.どのような形や色をしているか
    2.どのような危険があるか
    3.地雷や不発弾のありそうな場所
    4.発見する手がかり(動物の白骨死体や戦車の残骸など)
    5.埋設されている場所の目印や標識
    6.安全な行動、危険な行動
    7.地雷を発見したらどうするか
    8.地雷の被害に遭ったらどうするか

一昔前は、地雷の色や形、大きさを伝えることに力を入れる傾向がありました。特に、地雷除去団体が地雷回避教育を行う場合は、そうした知識が地雷除去要員に必要なこともあり、中でも形状の把握に力を入れがちでした。しかし、一般の人々にとっては、被害に遭わないためには、地雷の形状以上に、「どのような場所に埋まっているか?」や「地雷が埋まっている可能性を示す目印や標識」についてしっかり知ることが重要です。せっかく「地雷が埋まっているかもしれませんよ」という目印や標識を立てても、それを知らずに危険な場所に入ってしまっては意味がありません。また、被害に遭わないための行動を身につけるには、繰り返し伝える必要があります。AARは各国で地域の指導員を育成し、指導員が地域住民へ何度も訪問し講座を開けるような体制を作っています。

年々増える子どもの被害

AARもリサーチャーを務めてきた地雷禁止国際キャンペーン(ICBL)が毎年発行する「ランドマイン報告書」(年間の地雷の使用状況や被害者数、除去の状況などをまとめたもの)によれば、2017年の世界における地雷や不発弾など爆発性の戦争残存物による民間人の被害者は5,183人。その内47%が子どもです(死亡した子ども773人、負傷した子ども1,679人)。内84%が男の子で、女の子よりも多くを占めています。
これをアフガニスタンに限定して見てみると、2017年の民間人の被害者2,297人の内、子どもの被害者は1,270人と、55%を占めており、その割合は年々増えています。宗教的な理由から、アフガニスタンでは女性や女の子が出歩くことは控えられているため、男性と男の子が被害に遭う割合が高くなります。AARは学校や地域の集会所などで地雷から身を守る講座を開催していますが、男性や男の子を対象にした講座はもちろん、女性や女の子を対象にした講座も開いています。そこで学んだことを女性が家庭に戻り家族に伝えることで、未就学児にも伝えることができます。

迫られるIED対策

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IEDは身近なもので製造できるため爆発物と識別しにくく、身を守ることが難しいのが現状です。写真はソーダの缶でできたIED Copyright Reuters

最近の傾向では、被害に占めるIED(Improvised Explosive Device:即席爆発装置、通称「IED」)の割合が年々高まっています。「ランドマインモニター報告書(2018)」によると、民間人だけでなく軍事関係者を含めた2017年の被害者総数7,239人の内、IEDによる被害者は2,716人。全体の被害者数の約4割を占めます。
IEDに関しての教育を行わないと被害者は増える一方です。AARはIEDについても伝えていますが、IEDだからこその難しさがあります。
第1にその多様性です。色も形も大きさも、作動する仕組みも、中に入っている爆薬の種類も多様で、非常に伝えにくいのです。ソーダ缶や圧力鍋のようなものもあれば、対戦車地雷や不発弾に起爆装置を取り付けてIEDにすることもあります。
第2に、その簡易性です。IEDは簡単に製造できます。IEDの構造は極めて単純で、電源、スイッチ、発火装置、主となる火薬、容器の5つから成り、身近な素材で作れるのです。
第3に、製造や使用を制限することの難しさです。正規の軍隊ではなく、武装勢力などにより製造・使用されることが多く、対人地雷禁止条約のように実効的な規制を法的枠組みで行っていくのが極めて困難です。
しかし、国際社会も手をこまねいてばかりいるわけではありません。2018年5月には国連地雷対策サービス部(UNMAS)が国連即席爆発装置処理基準(United Nations Improvised Explosive Device Disposal Standards)を発行し、IED処理に関しての詳細な作業手順などを記した包括的な基準を発表しています。その中ではIEDの被害に遭わないための教育についても言及されています。

どう評価するか

実は、一番難しいのが活動の評価です。例えば地雷除去では、除去作業の結果〇〇平方メートルの土地が安全になったと言えますし、被害者支援では、義足の提供により△△人が歩けるようになったと言えます。つまり、活動とその成果が一目瞭然でわかりやすいのです。
しかしながら、地雷回避教育の場合はそう単純にはいきません。✕✕人に地雷回避教育を行い▢▢人が正しい知識を身につけたとしても、赤信号でも道路を渡ってしまう人がいるように、全員が正しい行動をとるとは限りません。地雷回避教育により被害が完全に防げるとは言えないのです。またIEDの場合は、正しい行動をとったとしても、爆発物とは特定しにくい多種多様なIEDによる被害を完全に防ぐことはできません。
AARが活動する国の人々は、もともと地雷や不発弾があるので、ある程度の年齢になれば、地雷や不発弾についてはなんとなく知っています。2019年にAARがアフガニスタンの小学生以上の男女100人を対象にしたアンケートによると、全員が地雷・不発弾の形状や危険性についてはある程度知っていました。AARの講座やラジオ番組を通じて知ってくれたかもしれませんが、近所や親せきなど身近に被害者がいて、すでに知っていたのかもしれません。本当にAARの活動だけで正しい知識を身につけたのかどうか、正確には分からないのです。

では、地雷回避教育活動は無駄なのかといえば、決してそうではありません。シリアでは、講習会に参加した男性が空爆に遭いましたが、AARの講座で学んだ爆発物から身を守る姿勢をとったところ、命が助かったとお礼を言われたり、アフガニスタンやスーダンでも、地雷を見つけたときに適切な行動を取ったことで被害を避けられたという報告が届いています。

AARの活動国では、地雷回避教育に関わる現地スタッフや地域の指導員たちが、地雷で命を失った多くの同胞のためにも、これ以上の被害をなくしたいという思いから、強い責任感と情熱を持って活動に当たっています。AARはそんな彼らとともに、今後も地雷から身を守る方法を伝え続けてまいります。

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

東京事務所 紺野 誠二

2000年4月から約10ヵ月イギリスの地雷除去NGO「ヘイロー・トラスト」に出向、不発弾・地雷除去作業に従事。その後2008年3月までAARにて地雷対策、啓発、緊急支援を担当。AAR離職後に社会福祉士、精神保健福祉士の資格取得。海外の障がい者支援、国内の社会福祉、子ども支援の国際協力NGOでの勤務を経て2018年2月に復帰。茨城県出身

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