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あなたを支えるもの:UNHCR―NGO年次会合に参加して

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難民問題は地球規模の課題に

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会合に参加したAARバングラデシュ駐在員の兼山優希(右)と筆者の名取郁子

「私の35年のUNHCR人生の中で取り組んだ難民問題のうち、一応の解決をみたのはインドシナ難民だけです」。7月3日から5日にかけてジュネーブで行われたUNHCR-NGO年次会合初日、世界各国で難民支援に携わるNGOら300団体から集まった500人に、フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官は開口一番、こう語りました。

この年次会合では毎年、国連とNGOがともに、よりよい難民支援のあり方を、3日間にわたり協議したり学んだりしています。AARからは今年、支援事業部長の筆者と、ミャンマー避難民支援に従事するバングラデシュ駐在員の兼山優希が参加しました。

世界の難民の数は、今や第二次大戦後最大の2590万人、避難先国での平均滞在年数は20年ともいわれます。今や、難民問題は、早急に取り組まなければならない地球規模課題である、との認識は各国により共有されており、そのための難民支援も急がれています。昨年末、世界各国が連携して難民問題に取り組んでいこうとする意思と行動計画を示す「難民に関する国際的な(グローバル)・合意(コンパクト)」(以下GCR)が、156ヵ国から賛成票を得て国連で採択されたことも、各国の問題意識の高さを示しています。

難民問題は、受け入れ国にとってなぜ「問題」なのか。難民支援はまず人道の立場から取り組まれるべきものですが、受け入れ国にかかる負担も相当なものです。数十万、時には100万人を超える人々に対して住む場所を提供し、最低限の生活を保障し、教育や医療を提供する。それには莫大なお金がかかります。それが10年、20年と続けばどうなるか。GCRの目的は、受入国の負担軽減、難民の自立促進、第三国へのアクセス拡大、難民の帰還のための出身国の状況整備の4つですが、効果的な支援を行い、難民の方々が尊厳と共に一日も早く自立することが、受け入れ国にとっても喫緊の課題なのです。

難民に必要な支援とは?

では、難民を支え、彼らが自立するための効果的な支援とは、どのような支援でしょうか。

 「難民と受け入れ地域の可能性を引き出すためのエネルギー、インフラ整備」と題した分科会のパネリストの一人、ノルウェー難民支援評議会(Norwegian Refugee Council) のエリアス・ジョルディ氏は、難民一人ひとりの事情と、彼らの置かれた状況の正確な理解に時間をかけることがその鍵だといいます。難民を支えることは、文字通り人を支えることである、そして、人の事情は千差万別、彼らを取り巻く状況もさまざま、とジョルディ氏は言います。スイスの作家マックス・フリッシュの有名な言葉「労働力を呼んだが、来たのは人間だった」は、スイスのイタリア人労働者に関するコメントでしたが、難民支援においてもまた、一人ひとりの「人」をみつめなければ、現状は見えてこない。そして「現状の正確な理解」もまた、やさしいことではありません。

難民の方々の事情は千差万別です。もともと都会で会計士だった人もいれば、地方でオリーブを栽培していた人もいます。英語を話せる人もいれば、国の公用語でない民族の言葉しか話せない人もいます。グランディ氏も指摘したように、職を得やすいなどの事情から、難民はますます都市に流れ込む傾向にありますが、例えば、田舎で緑に囲まれて生活していた高齢者にとっては、母国であっても、コンクリートに囲まれた都会で生きることのストレスは相当なものでしょうし、それが異国で言葉もわからない、近所も知らない人ばかり、という都市難民生活では、これまでその方を支えていた近所の方とのおしゃべり、自然環境、静けさ、といったものは失われてしまっています。母国語を話す機会が少なくなることや、毎年参加していた地域のお祭りもない、といった、文化的アイデンティティのゆらぎもあるでしょう。難民を支えるものはなにか。難民になっても維持しなければならないものはなにか。それは、人を、あなたを支えるものはなにか、あなたを支える人は誰か、と同義です。それはひとりひとり違うのです。

難民世帯を一軒一軒訪問し、直接ニーズを聞き取るAARの現地スタッフ(右)。トルコでのシリア難民支援の様子

22ヵ国からの難民が集まるケニアのカクマ難民キャンプ。AARは中等校の支援を行っている

通訳で正確に伝わる内容はわずか8%?!

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NGO「国境なき通訳団」の発表では、難民支援時に通訳を介して正確に伝わる内容はわずか8%との発表が

会合二日目「正確なデータに基づく支援活動」という分科会では、国境なき通訳団というNGOに所属する文化人類学者ミア・マルゾット氏による発表がありました。マルゾット氏によると、今、アフリカの42ヵ国に、支援を必要としている人が177万人おり、彼らの話す言語は3,289言語にものぼるということで、ニーズ調査の際には、現地で通訳を雇って対応するが、正確に伝わった内容は、全体の実に8%にすぎなかったというケースがあったとのことでした。例えば、gender-based violence(ジェンダーに基づく暴力)、というような言葉は現地ではなじみがなく、violent women(暴力的な女性)と訳されてしまった、などの事例が紹介されました。特に女性や子どもは教育の機会も限られているため、もともと住んでいた地域の言葉しか話せない難民も多いことを考えると、彼らの置かれた現状やニーズを正しく理解するためには、社会言語学的な背景も踏まえて訳出できるプロの通訳者が、難民支援の現場にも必要だということを、あらためて考えさせられたセッションでした。

一人ひとりのニーズを理解し、寄り添うということ

難民支援に関する当会の内部研修で、職員に、もし日本から逃げ出さなければならなくなったら、どこに逃げたいですか?と聞いてみると、実に様々な国の名前が挙がります。「オーストラリア。友人もいるし、1年留学したことがあって住みやすかったから」「ミャンマー。両親も連れていくとなると、人もやさしくて、食べ物も米が主食だし、仏教国のほうが住みよいと思う」「タイ。物価が安いし、アジア人差別もない」「ブラジル。日系人コミュニティがあって助けてくれそうだし、ポルトガル語を話せるのでなんとか仕事も見つかりそう。」「アメリカ。親族が住んでいるから。」。同じ日本で生まれ、似たような教育を受け、同じような仕事をしている数人の人に聞いても、避難生活を送る先として候補に挙がる国はばらばら。それは、一人ひとりの持つスキルや経験、ご家族の事情、異国で必要となるサポート、そして、親近感を感じる国もそれぞれ異なるからでしょう。

世界2590万人の難民も同様のはずです。しかしほとんどの人は、実際には逃げる先を選ぶことはできません。こうした難民の方々一人ひとりの事情にどのぐらいより沿った支援ができるのか。言葉も文化も慣習も異なる難民の方々の個々の事情を、通訳を介してどのぐらい正確に理解できるのか。自分を支えているものはなにか。そんなことを考えさせられた3日間でした。

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

支援事業部長・理事 名取 郁子

英国の大学院で開発学を専攻。2006年7月より2007年10月までAARアンゴラ事務所駐在。2008年1月から2010年4月まで南スーダン駐在。2010年4月より東京事務局勤務で、現在は支援事業部長兼理事。滋賀県出身

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